シネマ万華鏡 パーマネント野ばら
心の隙間、ユーモア交え描く
叙情的で独特の雰囲気を湛(たた)えた西原理恵子の人気コミックの映画化である。山を背にした海辺の田舎町を舞台に、離婚して実家の美容室に戻って働く女性の心の揺れ動きを、彼女の日々の暮らしの中で淡々と描いている。
高知の海辺にある長閑(のどか)だが活気の乏しい小さな町。たった1軒ある美容室は、女性たちが昼間から集う憩いの場になっている。切り盛りするのは、離婚して幼い娘を連れて戻ってきたなおこ(菅野美穂)と母親のまさ子(夏木マリ)。父親は外に女を作って家には戻ってこない。
なおこには2人の友人がいる。みっちゃん(小池栄子)と、ともちゃん(池脇千鶴)。フィリピンパブを経営するみっちゃんは、夫の浮気に悩まされて荒れた日々を送りがちだし、ともちゃんは男運が悪く、ギャンブル好きの夫が行方不明になっている。
そんな友人たちの出来事に付き合いながら、幼い娘や母親との日々の暮らしを送っているなおこは、高校教師のカシマ(江口洋介)と恋仲である。2人は教室や海辺のホテルで密(ひそ)かに会ったりするが、どういうわけか、なおこだけがいつも1人取り残される。
なおこの心の秘密はラストで明かされるが、その時みっちゃんが「いいんだよ」と彼女を気遣うシーンが印象的だ。寂れた町で閉塞(へいそく)感に苛(さいな)まれ、展望も男運も無いまま、もはや若いとはいえない主人公の心の隙間(すきま)を吹き抜ける寂しさが静かに伝わってくる。それでも不器用に生きていく主人公の姿が心に沁(し)みる。
監督は、「腑(ふ)抜けども、悲しみの愛を見せろ」などの吉田大八。主人公の感情の機微を、衒(てら)うことなくユーモアを滲(にじ)ませて等身大に描き出している。8年ぶりに主演した菅野美穂をはじめ女優陣が好演している。1時間40分。
★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2010年5月21日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。