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「ライト・アニメ」相次ぎヒット 「空の境界」「涼宮ハルヒ」などがファン拡大

2010/4/23 日本経済新聞 夕刊

ライトノベルやコミックを原作にした「オタク」向けの「ライト・アニメーション」とでも呼べるジャンルがある。単館上映が主流のため数千万円規模の興行収入にとどまり、DVDなどの販売で採算を合わせてきた。この作品群に今年、地殻変動が起きている。上映館数を拡大し、興収1億円を軽々と超えるヒット作が相次いでいるのだ。

興収7億2000万円

学園を舞台にしたアニメ「涼宮ハルヒの消失」は全国25館で公開。2月の公開から2カ月余りで、興収7億2千万円をたたき出した。実写の娯楽作でも大ヒットといえる数字だ。

1月公開のファンタジーアニメ「Fate/stay night」は約2億6千万円(4月11日時点)。同月公開のSF作品「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st」は約3億5千万円(同)と、快進撃を続けている。

ブームの火付け役とされるのが、奈須きのこの伝奇ノベルをアニメ化した「空の境界」だ。7部作を2007年~09年に順次公開。クオリティーの高さが口コミで評判を呼び、1館で始めた上映が最終的には23館に。興収は計3億600万円、DVDの出荷枚数は、テレビドラマの話題作に匹敵する75万枚にのぼった。

「『空の境界』はもともとが同人誌。最初に読んだ数人を満足させる映像にしたかった」と、制作会社アニプレックスの岩上敦宏プロデューサーは作品のコンセプトを語る。作画、脚本とも原作の世界観を忠実に反映。7章構成の小説に合わせて映画も異例の7部作にするほど、こだわりを徹底させた。その結果「コアなファンから、周辺のアニメ好きの層にまでじわじわと支持を広げた」という。

盛り上がりを受け、ファンの間でライト・アニメの“聖地”と呼ばれる映画館も出てきた。東京都豊島区のシネマサンシャイン池袋。このジャンルでは、全国の劇場の中で興収の1~3割、作品によっては5割のシェアを誇る。ロボットアニメ「天元突破グレンラガン」(08~09年)など05年から厳選した作品の上映を続け、知名度を高めた。

「ハルヒ」は同館でも2月上旬に公開。これまでに約6万人が来館し、興収は8千万円を突破した。運営会社、佐々木興業の佐々木武彦専務は「若いカップルや50代の人も見にきた」と観客の広がりを指摘。「162分の長編でも飽きさせないほど、しっかりと作り込んでいる」とうなる。

大手も制作に本腰

大手の制作会社もライト・アニメに本腰を入れる。「ガンダム」シリーズで知られるサンライズは夏までに劇場版2作品を世に送る。テレビシリーズの続編や、そこから派生させたのではない映画の発表は6年ぶりだ。

その1作である5月公開のSFアニメ「いばらの王―King of Thorn―」には、脚本だけで1年半をかけた。ヒット作「スチームボーイ」を手がけた同社の精鋭チームが作画を担当、意欲的な作品に仕上げた。

「いばらの王」が狙うのは、オタクからアート系漫画が好きな人まで。同社の内田健二社長は「これまでオタクの人向けの作品はあったが、その周辺の10~30代の映像ファンをも取り込んだジャンルを形成できていなかった」と話す。「中小規模の上映館数で興行がしやすくなるなど、挑戦の条件が整ってきた」と今後の展開をにらむ。

角川映画も今年4月、宣伝部の中にアニメ宣伝グループを新たに立ち上げた。椎名保社長は「将来は、作品の企画・立案からDVDなどの販売までを一貫して手がける体制を発足させたい」と語る。

角川グループには角川書店やアスキー・メディアワークスなどの出版社があり、ライト・アニメの原作となるコンテンツが豊富。椎名社長は「長期的な事業になるが、大きな可能性を感じる」と話している。(文化部 諸岡良宣)

[日本経済新聞夕刊2010年4月20日付]

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