しびれにくい正座のコツ背筋伸ばし重心前に

血流計も使った。くるぶしに測定棒をあて、5分おきに血流速度を観察。足が圧迫されると、水まきホースをつぶした時のように血の流れも速まるはず。

はたと困ったのが実験場所。一人暮らしの自宅には畳の部屋がない。そこで和室がある部屋に住む友人に相談。「散らかっていてもよければ」と言われ、半畳もあればと厚意に甘えた。

準備を整え、実験の日。まずは背中を丸めた姿勢で始めた。遠くからは路面電車の踏切の音。春の日差しも部屋に入り「ひざの上に猫でもいたら和むなあ」。そんなことを考えながら最初の10分は平和に過ぎた。

「あいたたた」。その時が来たのは15分後。「これ、無理かも」。足を守ろうと思わず背筋を伸ばす。が、こらえ直して再び背中を丸めた。耐えに耐え、30分が経過。一息つけたものの、次はあのピリピリとした痛みがきた。歩けなくもないが、痛い。しびれが消えるまで5分かかった。

4つの姿勢の実験は、足のしびれの回復も考えて最低でも実験後2時間以上の間隔をあけた。痛みが最も少なかったのは(3)の小笠原さんに教わった礼法の姿勢。正座中のしびれはあったがその後のピリピリ感はなく、ほぼ問題なく歩けた。

女の子座りが 最もしびれた

最高血流速度を見ても秒速5.1センチと4つの姿勢の中で最低。血管がそれほど圧迫されていなかったということか。逆に最もしびれたのは(4)の女の子座り。ひざの関節が痛んで立ち上がれず、正座を終えても15分間しびれが残った。

実験結果をスポーツ医学が専門の法政大学教授、伊藤マモルさんに見てもらうと「足の甲とひざ裏の動脈への圧迫が姿勢によって違うのでは」と解説してくれた。足の甲には足背(そくはい)動脈という太い血管があり、足の甲をべたっと床に押しつける正座の姿勢で押しつぶされる。しかし親指を重ねると足の甲がわずかにねじれ、床との間にすき間ができて血行不良が起こりにくいという。

また、重心を前に置くようにするとひざ裏の動脈への圧迫もわずかに軽減される。礼法の美しい姿勢がうまい具合に足への負担を軽減していたことになる。

女の子座りは「足を横にずらすとひざの関節がねじれ、骨と骨をつないでいる靱帯(じんたい)が無理に伸ばされる」と伊藤さん。楽に思える姿勢が、実は負担をかけていたようだ。

足のしびれはなぜ起こるのか。新潟大学医学部の名誉教授、下地恒毅さんは「しびれは神経が異常に興奮した状態。神経には太いものと細いものがあり、太い方は圧迫や血行不足に弱くまひしやすい。正座で太い神経が働かなくなるとシーソーのように細い神経が異常に興奮して、ジンジンする痛みを感じる」と話す。

正座後に感じるピリピリとしたしびれは「虚血状態から回復する時に感じる痛みだが、仕組みはよく分かっていない」という。

礼法の姿勢で何時間正座していられるか。後日、持久戦を試みた。「しびれかけたら足首をたてる姿勢をとるといい」(小笠原さん)と聞いていたので、それも実践しつつ、時計とにらめっこ。30分、40分は軽くクリア。それでも1時間を過ぎると太ももの筋肉が疲れて断念した。

「足がしびれる正座の姿勢は相手に敵意がないことを示しているので、しびれは必ずしも悪いことではない」。思い出したの小笠原さんの言葉。なるほど、これだけしびれると戦う意欲もなくなりそうだ。

[日本経済新聞朝刊2010年4月10日付]

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