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美女神の伝承たどる 大分・姫島 国東半島には石仏群

2010/4/10 日本経済新聞 夕刊

大分県の姫島は古事記の「国産み」神話や、日本書紀の美女神・比売語曽(ひめこそ)伝説に登場する瀬戸内海西部、周防灘の不思議な小島だ。海をはさんで南には、奈良、平安時代に花開いた神仏習合の山岳仏教文化の聖地、国東半島が広がる。姫島の「七不思議」スポットや、数多くの寺院・石仏群が残る国東半島の史跡を巡り、歴史のロマンにふれた。

千人堂は黒曜石が露出する断がいの上に立つ(観音崎)
巨岩壁に彫られた熊野磨崖仏。不動明王(左)と大日如来(豊後高田市)

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国東市の伊美港で姫島村営フェリーに乗り、約6キロ沖合に浮かぶ姫島に向かう。春の瀬戸内海は穏やかだと思ったが、この日は強風で周防灘は大荒れだった。わずか20分の航海中、フェリーが何度も傾き、船窓で波が砕けた。

やっとの思いで周囲17キロ、人口2500人弱の姫島に上陸した。この小さな島の交通手段は自転車だ。「七不思議を巡るだけなら2時間もあれば十分ですよ」と、レンタサイクルを扱う東みやげ店の東澄子さん(55)。島の仲間と姫島観光LLP(有限責任事業組合)「島の風」を立ち上げ、観光ガイドもしているそうだ。お願いすると、店の軽自動車で七不思議を案内してくれた。

最初に島北東部の日本書紀に登場する比売語曽神の社を訪ねる。伝説では韓国南部で白い石から美女が生まれ、王子の求愛を拒んで日本に渡り、島の神となった。「七不思議のうち4つはこのお姫様にまつわるもので伝承の跡が周辺に点在しています」と、東さん。

お姫様がおはぐろをつける時に置いた猪口(ちょこ)と筆の跡をとどめる「かねつけ石」、口をゆすぐため手拍子を打ってわき出させた「拍子水」と呼ばれるわき水などだ。ほほえましいのは田が浮いて揺れる「浮田(うきた)」の跡。お姫様が島民を救済するため池を埋めて稲田を造ったが、誤って雌の大蛇を埋めてしまったのが原因らしい。

どれもにわかには信じがたいが、説明板には姫島七不思議を詠んだ江戸時代の戯作者、柳亭種彦の短歌が添えてある。東さんは「伝承跡の風景から書紀に描かれたお姫様の世界を想像してくださいね」と笑う。

島の反対側の七不思議スポット、観音崎の千人堂には島の風メンバーの郷土史家、木野村孝一さん(63)が案内してくれた。海底から高さ40メートル、幅120メートルの黒曜石層が露出する断がいの先端に建つ社だ。

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伝説によると、千人堂の馬頭観音は大みそかの晩、債鬼(借金取り)に追われた1千人の島民をお堂にかくまったとされる。「この下は幕末に長州の下関を砲撃した米英など4国連合艦隊の集結地。その乗組員はもちろん、長州の伊藤博文、幕府の勝海舟も相前後して姫島にやってきましたよ」と、木野村さん。周防灘の向こうには山口県の下関、防府などの町並みがぼんやり見える。そのせいか、ここには山口方面の参詣者が多いそうだ。

帰りは宇佐市に足を延ばし、JR宇佐駅前から国東半島史跡めぐりの定期観光バスに乗った。半島中央部の最高峰、両子山(標高720メートル)から放射状に延びる谷筋に多くの寺院群や、仏像、石仏が点在する。宇佐神宮の八幡信仰と融合した、独特の山岳仏教文化圏を形成している。

圧巻は宇佐八幡の化身、仁聞菩薩が奈良時代に彫ったとされる熊野磨崖仏だ。鬼が一夜で築いた乱積石段を上ると、巨岩石に刻まれた高さ8メートルの不動明王と6.8メートルの大日如来が現れる。不動明王は定番の憤怒の形相ではなく、何とも愛らしい表情だ。古人のどんな祈りが込められているのだろう。

(戸所寛美)

[日本経済新聞夕刊2010年4月7日付]

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