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ダレル・アン指揮「フェスタサマーミューザKAWASAKI読響」 シンガポールの俊英が引き出すチャイコフスキーの魅力

2014/8/8

 シンガポール生まれの指揮者ダレル・アン(34)が世界の注目を集めている。2007年の仏ブザンソン国際指揮者コンクール1位をはじめ数々の受賞歴を持ち、12年には仏ブルターニュ管弦楽団の音楽監督に就いた。6月にはNHK交響楽団を指揮して日本デビュー。第2弾として7月29日に読売日本交響楽団を指揮した。ロシアで学んだアジアの俊英が得意のチャイコフスキーを聴かせた。

「フェスタサマーミューザKAWASAKI」で読売日本交響楽団を指揮したシンガポールの俊英ダレル・アン(7月29日、川崎市のミューザ川崎シンフォニーホール)=写真撮影 青柳 聡、写真提供 ミューザ川崎シンフォニーホール

 川崎市で8月10日まで開催中のクラシック音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。29日のダレル・アン指揮読響の演目はすべて19世紀ロシアの大作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93年)の作品だ。バレエ音楽「眠りの森の美女 作品66」から「ワルツ」、松山冴花をバイオリン独奏に迎えての「バイオリン協奏曲ニ長調 作品35」、それに最後の大作「交響曲第6番ロ短調 作品74『悲愴』」と言わずと知れた名曲が並ぶ。

 「日本で人気の作曲家は1位がチャイコフスキー、2位がショパン。日本の友人からそう聞いたよ」とアンは言って笑う。だが、チャイコフスキーの作品が人気だからといって、それが「通俗曲」であるわけではない。ロシアのサンクトペテルブルク音楽院を首席で卒業したアンは、チャイコフスキーの音楽について「テレビ番組やCMにその一部が使われて広く知られたからこそ、誤解されている」と語る。そして彼の作品の本質を「古典的形式によって構造化された音楽だ」と主張する。「一般に言われる通りもちろんロマンチックな音楽ではある。しかしそのロマンチックな要素も明快な形式の中に組み込まれている」と説く。

 メロディアスでロマンチック、大衆受けがしてムード音楽に近いとも思われがちなチャイコフスキーだが、アンはその作品を「非常に古典的」と捉える。「チャイコフスキーは(古典派の)モーツァルトを敬愛していた。だから彼の作品はモーツァルトと同様に明快な古典的形式で成り立っている」。この解釈は新鮮だ。確かに「組曲第4番『モーツァルティアーナ』」という作品もあるくらいだ。ではどう演奏するか。「例えばルバート(自由に緩急を付けて曲の感情を表現すること)をなるべくかけない。ルバートで表現したい感情や劇的表現は古典的形式の中にすでに組み込まれている」。

公演前日にチャイコフスキーについて語るダレル・アン(7月28日、都内)

 ロマン派の最たる作曲家の1人といわれるチャイコフスキーを「古典派」と捉えて演奏する。現代音楽ふうの不協和音や変拍子も古典的形式に組み込んだプロコフィエフやストラビンスキー、レスピーギら20世紀の「新古典主義音楽」にも通じる解釈だ。アンはブザンソンのほか、アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクール、アルトゥール・トスカニーニ国際指揮者コンクールでも最高位を獲得し、アジアで最も注目される若手指揮者の1人だ。ロシア、フランス、現代音楽を得意とするアンの真夏のチャイコフスキーは「むやみにドラマチックに盛り上げるのではなく、古典的形式を重視した演奏こそが作品の真の感情を表現できる」というものだ。さあ、どうなるか。

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