川瀬賢太郎の真摯な指揮が開く子供の音楽心日本フィル第40回夏休みコンサート2014

2014/7/26

音楽レビュー

日本フィルハーモニー交響楽団の子供向け「夏休みコンサート」が今年で40年目を迎えた。将来のクラシック音楽ファンをつくろうと、手抜きなしの本物のオーケストラ・サウンドを子供たちに聴かせてきた。注目の若手指揮者、川瀬賢太郎(29)の指揮による千葉県文化会館(千葉市)での7月19日初日の公演を聴いた。

子供たちに囲まれる人気の若手指揮者、川瀬賢太郎(7月19日、千葉市の千葉県文化会館)=写真撮影 山口 敦、写真提供 日本フィルハーモニー交響楽団

「子供向けのコンサートは本当に厳しい。子供は正直だ。拍手や驚きの反応で面白いかつまらないかがはっきり分かってしまう。ごまかしが利かない。真剣勝負です」。本番前、Tシャツ姿の川瀬はこう言って気を引き締める。1975年に始まった伝統の夏休みコンサート。今年は「日本フィル第40回夏休みコンサート2014」と題して、千葉市を皮切りに東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で8月3日までに16公演を催す。7月27日までの公演を川瀬、その後の公演を園田隆一郎が指揮する。

川瀬の「子供」についての発言は、モーツァルトの音楽を思い起こさせる。多くの演奏家が「モーツァルトの曲はごまかしが利かない。失敗がすぐにばれる」と言う。偉大な作曲家は子供心を持ち続ける。純真無垢(むく)の子供は音楽の天才なのだ。その子供相手の演奏会となると手抜きは一切許されない。日本フィルが夏休みコンサートに真摯に取り組んできたことは、歴代の指揮者の顔ぶれを見るだけでも分かる。日本フィル創設者の渡辺暁雄をはじめ、大友直人、高関健、下野竜也ら常に第一線の指揮者が担当してきた。

熱演を繰り広げる指揮者の川瀬賢太郎(左)と日本フィルハーモニー交響楽団(7月19日、千葉市の千葉県文化会館)=写真撮影 山口 敦、写真提供 日本フィルハーモニー交響楽団

川瀬は2006年の東京国際音楽コンクールの指揮部門で最高位(2位)に入賞。今年4月には神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。6月27日の神奈川フィル第300回記念定期演奏会ではマーラーの「交響曲第2番『復活』」を指揮して聴衆の感動を呼び、このライブCDの発売も予定されている。そんな活躍著しい若手指揮者のエンターテイナーぶりを、子供たちが見て、聴くのである。

親子連れや祖父母と孫らが会場に入ると、まずはゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685~1759年)の「水上の音楽」より「アラ・ホーンパイプ」から華やかに始まった。「軽快な曲調で幕開けにふさわしい。前菜として楽しんでほしい」と川瀬。周りを見渡すと、子供たちはぽかんとして舞台を眺めている。特に驚いたりウキウキしたりといった様子でもないが、最初はそんなものだろう。少なくとも眠りこむ子は見る限りいなかった。

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