広上淳一指揮NHK交響楽団天上の響きに地獄を聴かせる「ヒロカミワールド」

広上淳一(56)がNHK交響楽団を指揮してシューベルトの交響曲第5番とマーラーの同4番を披露した。1984年の第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクールで優勝して30年。常任指揮者を務める京都市交響楽団の演奏会を満員にする人気を誇る。意外に共通項が多いシューベルトとマーラーの交響曲。天上の響きの中に地獄を垣間見る「ヒロカミワールド」を聴いた。

シューベルトの交響曲第5番でN響を指揮する広上淳一=NHK交響楽団提供

5月28日、サントリーホール(東京・港)でのNHK交響楽団「第1783回定期公演」。広上が取り上げたのはシューベルトの「交響曲第5番変ロ長調」とマーラーの「交響曲第4番ト長調」。いずれも2人の作曲家にとっては小編成の交響曲だ。表面上はどちらも天国的な明るさや幸福感に満ちている。

初期ロマン派のシューベルトと後期ロマン派のマーラーはともに小さな歌曲と大きな交響曲の両分野で傑作を生み出した作曲家だ。死を意識し続けたロマンチストで、活躍の舞台がウィーンなのも同じだ。シューベルトのピアノ曲を得意とするピアニストの伊藤恵は「(天上的な響きとは別に)シューベルトには地獄がある」と言う。「ヒロカミワールド」も天上の明るさの中に作曲家のブラックホール、“地獄”を聴かせるだろうか。

マーラーの交響曲第4番でN響を指揮する広上淳一=NHK交響楽団提供

前半はシューベルトの交響曲第5番。第1楽章は優雅な滑り出しだ。広上は指揮台でほほ笑みながら踊っている。N響は一点の曇りもない澄み切ったサウンドを醸し出す。そこにはベートーヴェンではなくモーツァルトの影響が濃厚に漂う。しかも明澄な第5番はあの名作に似ていないか。そう、かなしみのシンフォニー、モーツァルトの「交響曲第40番ト短調」である。

シューベルトの第5番とモーツァルトの第40番の共通項は非常に多い。まず双方ともティンパニなど打楽器がない小編成の4楽章形式だ。基本調性はシューベルトの第5番が変ロ長調、モーツァルトの第40番は哀愁のト短調と長短の違いこそあるが、いずれも楽譜にフラット(♭)が2つ付く平行調だ。旋律やリズムも随所で似通っている。第1楽章と第4楽章はともに速いアレグロ。第2楽章はどちらも緩やかなアンダンテ。第3楽章のメヌエットは調性も同じト短調だ。

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