N
アート&レビュー
音楽レビュー

アルブレヒト指揮都響「第771回定期演奏会B」メンデルスゾーンとコルンゴルトに聴くロマン派の始まりと終わり

2014/6/18

音楽レビュー

ドイツの人気指揮者マルク・アルブレヒトが東京都交響楽団を初めて指揮した。演目はメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番とコルンゴルトの交響曲嬰ヘ調。いずれも神童の作曲家だが、前者はロマン派音楽の創始世代で、後者は20世紀半ばにその幕を引いた。旋律の復権や新ロマン主義の傾向もある今、アルブレヒトはロマン派の始まりと終わりをどう聴かせるのか。

都響を指揮するマルク・アルブレヒト(5月27日、サントリーホール)=写真 堀田 力丸

5月27日、サントリーホール(東京・港)での東京都交響楽団「第771回定期演奏会Bシリーズ」。アルブレヒトと共に舞台に登場したのは若手の注目ピアニスト、サリーム・アブード・アシュカール。フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47年)の「ピアノ協奏曲第1番ト短調」作品25でピアノ独奏を担う。アシュカールは1976年ナザレ生まれのパレスチナ系イスラエル人という。その彼がユダヤ系のメンデルスゾーンの協奏曲を弾く。演目の隠し味だ。

協奏曲の第1楽章は、半音階で上昇する短い弦楽合奏の後、演奏開始から10秒程度で直ちにピアノの速い独奏が始まる。アシュカールは超絶技巧ともいえる高速フレーズを余裕の雰囲気で小気味良く弾いていく。緩急を入れて歌う間もないほど速いだけに、ピアニストの技巧が目立つ一方で、「ト短調」の哀感や叙情性は後回しになりがちだ。アシュカールは几帳面(きちょうめん)に分散和音のリズムを刻むが、指の運びは滑らかだ。特に第2主題のわずかな緩みの中に叙情的な歌を響かせていた。

金管楽器によるファンファーレ風のフレーズを経て、切れ目なく第2楽章に入る。この作曲家の有名なバイオリン協奏曲と同様に全3楽章がつながっているのだ。青春の嵐がおさまった後の第2楽章は、緩やかな雰囲気が引き立つ。アシュカールのソロは、こぢんまりとした古典的枠組みの中に、初期ロマン派の叙情を優しいタッチで描き出す。何しろ各楽章とも演奏時間は5~6分と短い。聴衆が酔いしれるほどのロマンを醸し出すには、この協奏曲はまだ小規模だ。

ピアノのサリーム・アブード・アシュカール(左)と指揮者のマルク・アルブレヒト(5月27日、サントリーホール)=写真 堀田 力丸

第3楽章では苦笑する人もいるだろう。ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の動機が冒頭で繰り返されるからだ。メンデルスゾーンのベートーヴェン崇拝が感じられ、そこから個人の苦悩や愛の表現を拡大し、新たなロマン派の音楽を創造していった様子がしのばれる。アルブレヒトの指揮による都響は、ピアノを引き立てるバランスの良い演奏だった。淡々として正確な演奏で、古典派の構造美と、限定的な自由の中での初期ロマン派の若い感情を伝えていた。

注目記事