難産のバレエ「パゴダの王子」再演新国立劇場ビントレー監督の置き土産

「長年の問題作の解決法を日本でみつけた」。今年8月末で新国立劇場舞踊芸術監督の任期を終える英国人振付家(コリオグラファー)、デビッド・ビントレー(1957年生まれ)が同劇場バレエ団のために制作した大作、ベンジャミン・ブリテン作曲の「パゴダの王子」が3年ぶりに再演される(6月12~15日に新国立劇場オペラパレスで計5公演)。

歌川国芳の世界にひらめき

昨年のブリテン生誕100年を受け、今年1月にビントレー率いるもう一つのバレエ団、バーミンガム・ロイヤルバレエがバーミンガムとロンドンで上演した英国初演には新国立バレエ団のダンサーも参加。「英国バレエ界で2014年屈指のエキサイティングな初演」(インディペンデント紙)、「ブリテンの『パゴダ』の愛らしく奇妙で、扱いにくいスコアの真価がついに明らかとなった。理想の解釈者を得たといえる」(ガーディアン紙)と、メディアもこぞって絶賛した。

デビッド・ビントレー新国立劇場舞踊芸術監督

「菊の国」の王子が幼くして行方不明となり「さくら姫」は孤独に育つ。失意の皇帝は衰え、魔物が姿を変えた今の皇后に操られている--「パゴダの王子」の物語は、バレエとしても奇想天外の部類に属する。英国の名コリオグラファー、ジョン・クランコが想を練り、ブリテンに作曲を委嘱。1957年にロンドンのロイヤルバレエが世界初演した。同バレエ団では89年、ケネス・マクミラン振り付けの新プロダクションも初演したが、クランコ版と同じく大きな成功を得られなかった。ビントレーによれば「クランコとブリテンのコミュニケーションが良好とはいえず、クランコの意図を測りかねたブリテンの欲求不満がつのって楽曲の完成も遅れ、初演は延期された。それから半世紀以上にわたり、負の歴史が続いた」

何がいけなかったのか? 「ロマンティックな妖精物語とはいえ展開に必然性が乏しく、パドドゥなど踊りの場面のつながりも良くない。登場人物のキャラクターも曖昧で、結論らしきものが見えにくい」。ビントレーはクランコ台本のまずさを、原因とみる。

歌川国芳の浮世絵から想を得た舞台(撮影=瀬戸秀美、提供=新国立劇場)

解決策は突然、降ってきた。東京の芸術監督ポストを得た後、江戸時代の浮世絵師である歌川国芳の展覧会を見た瞬間、「美しく鮮やかな色彩の世界に、扉が開けていく気がした」という。本来は中国の物語だが、舞台を鎖国時代の日本に置き換えれば「台本の曖昧さを未知の国への興味に変換できる」と直感した。「日本は天皇陛下のおられる国なので、皇帝役のキャラクターにも深みを与えられる」との考えに立ち、王子とさくら姫を恋人から兄妹に読み替え、家族愛の勝利で皇帝の心が満たされ、国が収まる結末を設定した。