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シドニー湾に浮かぶ「蝶々夫人」 日本人プリマの大村博美に大喝采

2014/4/14

 フランスを本拠に世界の舞台へ進出している日本人プリマドンナ、ソプラノ歌手の大村博美がオーストラリアのシドニー湾上の特設舞台でプッチーニの名作オペラ「蝶々夫人(マッダーマ・バッテルフライ)」の主役チョーチョーサンをスケール豊かに歌い、大喝采を浴びている。

■3週間に11回の舞台で主役を張る

 今年3月21日から4月13日まで全21回の公演のうち、大村は初日を含め11回に出演した。南半球の季節は夏の終わり。結婚式の場面で海上の小舟から花火も上がるなどスペクタクル満点の舞台だが、大村は気丈な日本女性の内面を屋内上演に匹敵するほど緻密に、しっとりと演じ、深い感銘を与える。

 シドニーといえば、貝殻を思わせる形状でユネスコの世界文化遺産に認定されたオペラハウスが有名だ。実質上の国立歌劇団、オペラ・オーストラリア(OA)は大小5つの舞台のうち座席数1400とハウス内で2番目に大きいジョン・サザランド劇場を本拠にしている。シドニー湾上の公演はOAが屋内とは別枠で企画、大口スポンサーである日本人実業家、半田晴久(宗教家としては深見東州)氏の名を冠し「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」と命名した。昨年まで2年間はベルディの「ラ・トラビアータ(椿姫)」を上演。「蝶々夫人」は今年からだ。企業協賛には、自動車のマツダも加わっている。

チョーチョーサンの嫁入り。背後の借景にシドニー湾名物のオペラハウス、ハーバーブリッジが見える(撮影=James Morgan)

 だが大村は日本人の役だからでも、「ジャパン・マネー」のパワーゆえでもなく、プリマドンナとしての傑出した力量で主役に抜てきされた。2012年の10月から11月にかけてサザランド劇場のOA本公演で沼尻竜典の指揮、メルボルンのアーツセンター州立劇場でジョバンニ・レッジョーリの指揮でチョーチョーサンを歌い演じて成功を収めた。メルボルンの舞台はすでにDVD、ブルーレイとして世界発売されている。「14年にシドニー湾上でもう一度、歌わないか」との申し出は、メルボルン公演の直後に受けたという。シドニー空港に降りた途端、大村をフューチャーしたポスターが目に飛び込む。市内のバス停やタクシーの車体にも同じ意匠の広告が掲げられ、街を挙げた観光イベントの趣がある。

 海の上の「バッテルフライ」の演出は斬新な空間処理でヨーロッパのオペラハウスを席巻するカタルーニャの演劇集団「ラ・フラ・デルス・バウス」、その中でもディレクターのアレックス・オリエと舞台装置家のアルフォンス・フローレス、衣装デザイナーのリュック・カステリスのチームが中心となって請け負った。表面に人工芝を敷き詰めた幅44メートル、奥行き29メートルの舞台(1279平方メートル)を海上にしつらえ、てっぺんに竹林が立つ。両サイドにはリモートコントロールの巨大な24トンのクレーンが2本立ち、画像スクリーンを舞台上に置いたり、天空からつり下げたりする。さらに太陽を担う直径12メートル、月を担う同6メートルの球体が点滅し、幻想的な雰囲気を醸し出す。

シドニー湾上に浮かぶ舞台(人工芝でマウント)と地上の売店、客席を側面からながめる

 背後ではオペラハウス、ハーバーブリッジ、あるいはシティ地区の高層ビル群が絶妙の「借景」として機能する。特設舞台はオペラハウスのちょうど対岸、シドニー王立植物園の一角につくられ、地上の野外客席には3千人が収まる。オーケストラは舞台の真下に隠れ、客席中央に立つ照明・音響装置のタワーにしつらえたスクリーンに水面下の指揮者が映し出され、歌手たちはそれを見ながら歌う段取り。「実際には、いちいちスクリーンめがけて顎を上げて歌うわけにいかないので、耳から聞こえる音を頼りに合わせている」と、大村は打ち明ける。

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