共働きの小6ママ 「塾弁当」作りの悩み
出張調理サービスの活用も
「正直、弁当作りは得意じゃないけれど」。東京都内の会社員、佐藤沙織さん(仮名、46)は週4日、早朝に娘の弁当を作る。大手進学塾に通う娘は2月、新小6のクラスに進級。帰宅が午後9時すぎになる日に、塾で弁当を食べる。
メニュー選び悩む
ただでさえ忙しい出勤前なのに、塾弁当を作る朝は台所にいる時間が20分増えた。メニューにも悪戦苦闘。豚バラ肉のおかずを作ったが、冷めると肉の脂肪が白く固まり「自分で言うのも何だが、まずかった」。塾では作りたての弁当を塾に届ける専業主婦もいる。「比較して娘が落ち込んだらかわいそう」。思いは募るが、冷めても美味で腐らないメニューは、などと考えるだけで憂鬱になるという。
働くママが直面する仕事と育児の両立への壁。小学校入学後、放課後の預け先に悩む「小1の壁」、多くの学童保育の受け入れが終わる「小4の壁」が知られるが、塾弁当をはじめ中学受験への支援が求められる「小6の壁」の存在もささやかれている。
栄光ホールディングスによると、2月の私立・国立中学と公立中高一貫校の受験(検)者数は、首都圏1都3県で約6万2000人(3月5日現在、速報値)。小6の約20%で、割合は前年とほぼ同じだ。
塾の授業は午後5~9時ごろ。午後6時台に休憩時間があることが多く、弁当持参派が大半を占めるとみられる。
「つるかめ算を教えるのは無理。でも弁当なら作れる」。4月に小6になる娘を持つ都内の秘書、加藤真美さん(仮名、45)はどんなに多忙でも塾弁当作りは欠かさない。仕事を言い訳に手を抜いた結果、子どもが体を壊したら困る――。そんな恐れもある。
とはいえ「両立が大変なら受験をやめれば」との外野の声も気になり、弱音も吐きにくい。ストレスを減らすにはどうしたらよいか。「先輩ママ」に知恵があった。
作った塾弁当は200個以上――。IT(情報技術)関連の大規模会議の企画・運営を担うウィズグループ(東京・港)の代表取締役、奥田浩美さん(49)は、中2の娘が受験準備をした小4から6年の間、塾弁当を作り続けた。
多忙で平日は娘と夕食を食べられない。その分、塾弁当で「娘への愛情を表現したかった」。とはいえ、朝も時間がないため「10分でできる」メニューを考案。巻きずしでは手間がかかるかんぴょうは却下。包装を開けてすぐ使えるカニかまぼことキュウリを挟むなど、時短を重視した。
容器や小物にこだわり、竹かごの弁当箱を使ったり、食品用のワックスペーパーを底に敷いたり。簡単なメニューでも豪華に見えるためだ。
コンビニエンスストアの総菜やおにぎりを時々利用したのは、太田和恵さん(仮名、51)。4月に希望の中学に進む息子は、週5日、塾で弁当を食べていた。「連日作るとストレスもたまる。息子も何を買おうかと考えるのが息抜きになったようだ」。罪悪感を持ちがちな「買い弁」も、意外な効果を生むようだ。
親子の良い思い出
外部サービスを利用する手もある。家事支援大手のベアーズ(東京・中央)は、利用者宅に出向き調理をする「楽ラクうちごはん」サービスを2012年に開始。働く女性を中心に利用客の多くが弁当用のおかず作りを注文する。「ひじきやきんぴらなど和食の注文が多い。作り方を教えてという顧客も少なくない」と専務の高橋ゆきさん(44)。
働く女性に詳しく、自身も2月、息子の中学受験を経験した女性生活アナリストの山本貴代さん(48)は「中学受験や塾弁当作りは、仕事と育児の両立を阻む壁と思いがち。でも、親子が一緒にがんばった濃密な時間は、よい思い出になる」と話す。たかが弁当、されど弁当。「受験必勝」と熱くなるのではなく、親子の思い出づくりと考えれば、案外楽しめるかもしれない。(編集委員 武類祥子)
塾弁当には3つのジャンルを盛り込むと理想的。弁当箱の半分にご飯など主食、残りの半分ずつに肉や魚の主菜、野菜の副菜を詰める。量は弁当箱の容量で700ミリリットルくらいが目安。おかずは子どもの励みになるように、好物を入れよう。作る側は「毎日からあげなんて」と思いがちだが、飽きるまで入れ続けてよい。
汁気があると腐敗が進む。ホウレン草のおひたしなら、カツオ節やとろろ昆布など乾物を載せると、水分を吸い取ってくれる。また、小学校の給食がない夏や冬の長期休みの時期は、カルシウムが不足しがち。牛乳を買わせたりチーズを添えたりしたい。
大事なのは気負いすぎないこと。「ママががんばって作ったのに何で残すの」となりがちだからだ。弁当が子どものプレッシャーにならないように「食べられなかったら残していいよ」とやさしい一言を添えてあげよう。
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