マニュアルだけでは危ない マンションの防災対策普段づきあいカギ

東日本大震災からまもなく3年。マンションの“防災力”を高めようと、住民たちの取り組みが続々と始まっている。建物の構造や設備の改善は難しくても、マニュアルづくりや訓練などで防災対策ができる。資金の捻出や意識向上という課題もあるが、カギを握るのは普段からの備えだ。

訓練通じて改善

「首都直下型地震にマンション全体で備えよう」――埼玉県狭山市のつつじ野団地管理組合は昨年、「活動マニュアル」の作成に着手した。

約10ヘクタールの敷地に大小合わせて106棟が並び、1004世帯が暮らす。マニュアルによると地震発生時は、地区ごとに計84カ所設ける防災班が被災住人を救助。管理組合と自治会が対策本部を置き、情報収集や建物の安全確認を手分けし、炊き出しや救援物資の配布もマンションで行う。

参考にしたのは東京都のある自治体のマンション向け防災マニュアルだが、実際に訓練してみると問題点も。例えば、けが人の情報が対策本部に伝わるまでの伝達ルートが複雑で、時間がかかりすぎた。「実際に現場で役立つ内容にしないと」と防災委員長の柴田明さん。連絡用紙をコピーの手間が省ける複写式用紙に変更するなど、今年の訓練でもさらに改善点を探る。

柴田さんは「マニュアルを作るだけではダメ」と強調する。カギは住人の力だ。災害時に医療や設備の専門知識を持つ人に頼れるよう、名簿を作成。病気などにより単独で避難できない要支援者の名簿も作った。高齢や乳幼児を抱えて身軽に動けない人向けに、家具の移動や電球交換といった日常生活に関する有償ボランティア活動も始めた。

東日本大震災はマンションが防災に乗り出すきっかけとなった。東京都品川区のパークホームズ武蔵小山は震災後、帰宅困難者を共用の集会室で受け入れる防災協定を区と結んだ。管理組合で防災担当理事を務める小久保一郎さんの発案だ。共用部に非常食や毛布など区の備蓄物資を600人分置いている。

帰宅困難者を受け入れることで、マンション住人にも利点がある。東日本大震災の翌日、小久保さんが経営する米店には朝6時から米を求める行列ができた。その経験から今後の大地震への備えを考え始めたが、マンション管理費から防災に回す余裕はない。そこで「区と協力して地域の人と助け合えば、情報も自宅に戻れない人向けの物資も区から入手できる」と考えた。

明海大学不動産学部の斉藤広子教授は「住民が助け合えば災害に素早く対応でき“防災力”が高まる」と話す。東日本大震災後、浦安市のマンションを調査したところ、懇親会や夏祭りなどを頻繁に開くマンションでは、避難の確認や給水などの情報伝達が円滑で、復旧に役立った。

日本マンション学会会長で千葉大学大学院教授の小林秀樹さんは「大人・子供など大まかな住民情報の共有と、災害時に意思決定する人は最低限必要」という。

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