アート&レビュー

舞台・演劇

危機に触発された創作に深い余韻 演劇回顧2013

2013/12/26

福島第1原発の北にある街で時ならぬ「ベルリンの壁」という言葉を聞いたのは、10月も半ばのことだった。ことし最も深く胸に刺さった言葉のナイフ。夜間の立ち入りが禁止されている南相馬市小高地区で神社を守る相馬胤道宮司の口から出たものだ。

放射線量に関係なく国は一方的に20キロ圏の曲線を引いた。ある日突然、壁を築くように。線の内側に住む人は我が家に帰れなくなる。隣近所の人と連絡がとれなくなる。「こんなことが今の日本であり得るのか」と宮司はうめいた。放置された田を黄色いセイタカアワダチソウが埋めつくす。黄色の異常な増殖の何と不気味だったことか。

演劇界を回顧するにあたって、まずあげておきたいのは、やはり東日本大震災の不条理と向き合う創作である。いまだ決定的な傑作を生むにいたってはいないが、危機に触発される創作家の姿勢を重くみたいからだ。

福島県いわき市に住む演劇人が地元の公共劇場いわき芸術文化交流館アリオスと共同で創作した地域演劇「東の風が吹くとき」(高木達作・演出)は、原発に近い故郷に居残る老夫婦の物語。田畑を耕し、牛を飼う普通の暮らしが抵抗の形を表す。福島弁で語られる生々しい逸話はいわき在住の作者にしか書けなかった。青森県立美術館は演劇部門をもつ全国でも珍しい美術館で、舞台芸術総監督の長谷川孝治が日中韓の共同制作「祝/言」を作・演出したのが異彩を放った。三陸のホテルで開かれた日韓の国際結婚の宴を津波が襲う。闇に響く音響だけで表現した津波の生々しさは、これまでにない演劇の試みだった。

東京の演劇人では蓬莱竜太作・演出「死ンデ、イル。」が震災後の喪失感をとらえる実験劇。科学と倫理の問題に切り込むブレヒトの名作「ガリレイの生涯」を演出した文学座の高瀬久男、三好十郎が原子力を糾弾した「冒した者」を演出した長塚圭史の危機感が際立っていた。新国立劇場がドイツの気鋭ローラント・シンメルプフェニヒに委嘱した「つく、きえる」(宮田慶子演出)は日独の言葉の壁を感じさせる難解な詩劇だったが、原発事故を見すえる作意は記憶されていい。

中国や韓国との間で領土問題が浮上して若い演劇人が危機感を募らせたのは、ことしの大きな特徴だった。言葉の反復や走っては転倒する身体によって沖縄戦をとらえたマームとジプシーの「cocoon」はひときわ鮮烈な成果。漫画を原作としつつ独創的な舞台表現に結実させた藤田貴大(作・演出)がいだく戦争への危機感は強い。試行的作品ながら岡田利規作・演出「地面と床」が戦争の予感を言語化する異色作であった。

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