市民向けの医療講座を開くNPO法人メディッセ(大阪市)の事務局を務める宮田妙子さん(40)は、昨年10月からここを仕事場にしている。以前借りていたオフィスでは「一日誰にも会わず、電話すらないこともあった。静かな環境でも仕事がはかどるわけではないと知った」。様々な仕事をする利用者と、昼食やお茶をするのが気分転換になり、視野が広がるという。
「『働く』は『暮らす』の一部。多様な人と知り合うなかで信頼が生まれ、一緒に何か仕事をしようとなれば、なおいい」。周代さんは来年第2子を出産予定だが、自分なりのワークライフバランスを考え続けるつもりだ。
独立心を生む
「デスクに何を置き、どんな音楽が流れているか、仕事場の環境はとても大事。趣味嗜好が近い人と一緒に働けたら楽しいかも」。12年、友人と2人で東京・高円寺のビルに「こけむさズ」(東京都杉並区)を開いた石嶋未来さん(31)は話す。室内にはゲームやギター、ハンモックを置き、壁にはイラストを描いた。薄暗い照明に照らされた空間は秘密基地のようだ。
ライブドアから独立し、主に自宅でウェブデザインの仕事をしていた。経済的には十分だったが「生活リズムが乱れるし、精神的にも良くない。寝るためだけに帰る部屋なら最低限の広さでいい。生活を持ち込める仕事場をつくろう」と考えた。
鈴木侑さん(27)は週4~5日、ここで仕事をする。今ではここで夕飯を作って食べるのが習慣だ。「近所に面白そうな場所ができた」と見学に来た時は、ソフト開発大手のサイボウズで働いていた。「くだらない話をしたり、石嶋さんに助言をもらったり」して、仕事と生活が地続きの環境に心地よさを感じている。利用者の働き方に触れるうちに、独立して働くイメージも固まったという。
コワーキングスペースは新たな仕事の芽を生み出す場と考えられているが、石嶋さんは「隣に座るだけで仲良くなるわけではない。まずは共感の輪が広がるかどうかが重要」と考える。「働く」を核にした、いわば現代版トキワ荘のような新たなコミュニティーは、お互いの働き方や生き方に影響を受ける場として定着していきそうだ。