(聞き手は日経BP社 デジタル編集センター編集委員 大谷真幸)
――2012年に発表した「海賊と呼ばれた男」(講談社)が今年、第10回本屋大賞を受賞した百田さんにとって、「永遠の0」は50歳で書いた処女小説だった。
「永遠の0」を書き始めたのはちょうど50歳になったときです。「人生五十年」という言葉があるけれど、「昔だったら人生終わっとんやな」と思ったんです。
それまでは放送作家としてテレビのバラエティー番組を作っていました。テレビの仕事は大勢で作る楽しみがあるのですが、50歳を超えて、今までとはまったく異なる表現の世界を、1人でやってみようと思った。それが小説を書き始めたきっかけでした。
――小説の舞台に第2次世界大戦中の日本を選んだのは、当時、闘病中だった父親が関係していたという。
小説を書こうと思ったとき、父が末期がんであと半年という時期を迎えていました。その一年前には叔父が亡くなっていた。
父も叔父も兵隊として第2次世界大戦を経験しています。その人たちが歴史から消えようとしている。
僕は、父や叔父から戦争の話を聞いています。私は戦争が終わってちょうど10年目に生まれた子供だから、それが普通でした(百田氏は1956年生まれ)。でも、父も叔父も、自分たちの孫には戦争の話をしていないんです。父の世代が消えてしまうと、語り継ぐ人がいなくなってしまう。彼らから話を聞いてきた世代として、その話を受け渡さないといけないと思ったのです。
――主人公を零戦のパイロットにしたのは「第2次世界大戦全体を描きたかったから」だ。
太平洋戦争をきっちりと描こうと思ったら、本にして何冊分もの分量が必要になります。でも、小説にするからにはコンパクトにまとめたい。分量を抑えながら戦争全体を描くには何が必要か。その答えが多くの戦場を描くことでした。
零戦はあの戦争を最初から最後まで戦った戦闘機です。真珠湾攻撃から終戦間際の特攻に至るまで、戦場には零戦がいた。主人公を零戦の搭乗員にすれば、多くの戦場を描ける、あの戦争全体を書けると考えたわけです。
主人公にあえて「臆病者」「海軍の恥さらし」と言われる人物を選んだのは、小説で「生きる」ということを描きたかったからです。当時の航空兵は、非常に戦死率が高かった。作戦に出たら何割かが死ぬという戦いを、繰り返し繰り返し続けるんですから。その中で「とにかく生きて帰る」というキャラクターを生み出すことによって、作品のなかで「生きる」ことを問えるのではないかと考えたんです。