――若い読者の感想をインターネットで見ることがある。多い感想は「知らなかった」というものだという。
戦争について知っていることもあると思うんです。1941年に日本が真珠湾を攻撃し、1945年に無条件降伏した。東京、大阪、名古屋に大空襲があった。広島、長崎に原爆が落とされた。そういった「箇条書き」の事実は彼らも知っているでしょう。
若い読者たちが知らないのは、日本がどう戦い、どう敗れてきたのか。そして自分たちのおじいちゃんやおばあちゃんが、どういう時代を、どう生き抜いてきたのか。小説がきっかけで「もっと知りたい、勉強したいと思った」いう声を聞くと、うれしくなります。「亡くなったおじいちゃん、おばあちゃんにもっと話を聞いておけば良かった」という感想を読むと切なくなります。
若い世代にとって太平洋戦争はずいぶん昔の話に思えるでしょうが、江戸時代とは違って、探せば自分の親族にも戦死者がいる、そういう時代の話なんです。
――「永遠の0」はこれまで映画化の依頼が何度もあったが、すべて断ってきた。
これまであった映画化の話は全部、脚本が気に入らなかったんです。原作は600ページくらいあるので、普通にまとめたら7~8時間の作品になってしまいます。これをまとめるのは難しい。「これは自分が脚本を書くしかないな」と思って、書き始めたこともあるのですが、結局、できませんでした。自分でもできないんだから、これは映画化は無理だなと思っていたのです。
そんなとき、山崎監督から「映画にしたい」という話があって、シナリオを見せてもらったら、これがすごかった。他の脚本はモタモタしているところがあって、焦点がぼけるなと感じたところもあったのですが、それがまったくなかった。話の流れも、展開もお見事。映画にするために原作と違うところもあるのですが、全然気になりませんでした。
できあがった映像を見たら、これもお見事としか言いようがない。試写を4回見ました。普通4回も見ると、どれだけよくできた映画でも退屈するシーンが出てくるものなんです。今回の映画にはそれがまったくない。僕は10年に一度の傑作だと思っているんですが、ややこしいことに僕は原作者なので、「そりゃ、お前、原作者だからやろ」と言われてしまう。だから原作者やなかったらよかったのに、と思うくらいですわ(笑)。