「人の名前が出てこない」は心配なし老化のメカニズム、専門家に聞く

顔は浮かんでいるのに名前が出てこない、スケジュールをつい忘れてしまう、酒が弱くなった、朝早く目が覚めてしまう――。サラリーマンも50代となると、衰えを感じることが多い。これは老化なのか。対策はあるのか。医学博士で老化のメカニズムに詳しい内科医の松下哲氏に聞いた。

松下哲(まつした・さとる) 1935年生まれ、医学博士。東京大学医学部卒。東大病院第三内科、東京都養育院付属病院副院長をなど経て、大久保クリニック(千葉県習志野市)院長。日本老年医学会所属、老化の専門家。著書に「なぜ、どのようにわれわれは老化するか」(かまくら春秋社)などがある
老化を感じるシーンその1 「人の名前が出てこない」

「ほら、あいつあいつ、ちょっと小太りで、経理部のほら、なんて言ったっけ、あー、顔は浮かんでいるんだが……」「もしかして田中のこと?」「そうそう、田中、田中、あいつがさあ……」

最近、こんなシーンが増えてきた。会話をしている最中、人の名前が出てこない。その人の顔は浮かんでいるのに。若いころ、こんなことはなかった。これは老化なのか。

松下氏によると、仕方がないことで、特に心配する必要はないという。人間の脳のうち、人の顔のような映像情報は、後頭葉がつかさどっているという。この機能は生物に古くから備わっている。例えば、野生動物の世界では、天敵を映像情報として記憶し、認識できないと、生死に関わる問題になる。脳の働きの中でも、極めて原始的なものだ。だから年を取っても、脳のこの部分はあまり萎縮しない。顔という映像情報の記憶が残るのは、このためだ。

一方、人の名前は言葉であり、文字情報だ。こちらをつかさどるのは前頭葉だという。この機能は生物の進化とともに発達したもので、脳の進化の歴史の中でも比較的新しい。その分、衰えは早く、年とともに萎縮する。名前という文字情報の記憶が、映像情報の記憶より早く衰えるのはやむを得ない。

人の名前が出てこないとき、思い出すまで頑張らないと、ますます衰えてしまうと心配する人もいるが、松下氏によれば「そんな心配は無用です」。後になって、ひょっこり思い出すまで悠長に構えていれば良い。むしろ「なんで思い出せないんだ」とイライラする方が脳に余計なストレスをかけるので、良くないそうだ。

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