小空間で「実感する肉体」 ダンサー勅使川原三郎の挑戦

ダンサーで振付家、世界の大舞台で活躍してきた「ダンス・アーティスト」の勅使川原三郎が席数100にも満たない小空間で、新たな展開に乗り出した。

観客と制作プロセスを共有

東京・杉並のJR荻窪駅西口から徒歩3分ほどのところに今年夏、複合アートスペース「カラス・アパラタス(KARAS APPARATUS)」を開いた勅使川原は「飾りの全くない空間で語られる真実」を眼前の観客とともに探る。還暦(60歳)に至った現在も年5本以上の新作を発表し、今秋以降もパリ・オペラ座はじめ欧州各地で新作初演を予定する。だが小舞台では1人のダンサーとして、「実感する肉体」を研ぎ澄ます。その姿は晩年に一座を立ち上げ、命がけで旅公演を続けた大俳優、宇野重吉を思い起こすほど。鬼気すら漂わせている。

「カラス・アパラタス」では必ず、観客に語りかける(右が勅使川原三郎)

アパラタスをしつらえた背景には、危機意識があった。「大劇場には『あそこへ行かなければならない』との意識に始まり、階段や警備員など、いくつもの敷居があり、ふらっとは近づけない。表舞台での一方的発信は派手に飾られていても、観客と話す機会は奪われている。一切の飾りを排し、観客とじかに語り合う中に、大変な真実が潜んでいるかもしれない」「荻窪で完全にプライベートな空間をつくり、劇場とは全く異なる場面で稽古を公開し、表現者ではない人々とも制作プロセスを共有するうちに、自分の肉体を成長させたい」「1時間ちょいのパフォーマンスとともに、必ずマイクをもって至近距離の人々に語りかける。表現者の揺れ動く気持ちを率直にぶつけると、アーティストも1人の人間であって、同じ時代を生きているのだとの理解や共感が広がる。ダンス自体も面白くなってきた」「歓談の空間が『つくる』場として機能し、一つの人格表現に結晶する」