訪日外国人に異変? 過去最高なのに中国人客は大幅減
編集委員 小林明
日本を訪れた月間外国人旅行者数が7月に初めて100万人を突破し、今年1~7月の累計訪日外国人客数も595万7700人と過去最高を記録。かつて政府が目標に掲げた「年間外国人客数1000万人」の達成が現実味を帯びている。円安やビザ(査証)発給要件の緩和などを背景に日本への渡航人気が高まっているためだが、統計を詳しく読み取ると、意外な事実が浮かび上がってくる。
「観光立国」を目指す日本にいま、何が起きているのか?
日本を訪れる外国人旅行者数はこれからどんな軌跡をたどるのか?
統計を元に詳しく追いかけてみた。
円安・富士山・東京五輪効果を期待
「アベノミクス効果で円安が進み、富士山が世界遺産に登録され、さらに2020年の夏季オリンピックの東京開催も決まった。まさに海外からの観光客誘致には絶好の追い風が吹いている」。日本政府観光局(JNTO)海外マーケティング部長の小堀守さんはこう期待を込める。小泉純一郎元首相は03年、10年までに年間1000万人の訪日外国人客数を目標に掲げたが、その目標が3年遅れでようやく達成できそうな勢いを見せているからだ。
これまで訪日外国人客数はどんな推移をたどってきたのだろうか?
棒グラフは日本を訪れた年間訪日外国人客数の推移である。07年まで順調に増加を続けたものの、09年はリーマン危機(08年9月)のあおりで減少、11年は東日本大震災(同年3月)の影響で大きく減少。「観光立国」への道のりは大幅な練り直しを迫られた。
リーマン危機・震災の影響を克服
だが、再び潮目が変わるのが12年。12年通年で前年比34%増と回復基調に転じ、さらに2013年1~7月の累計も前年同期比22%増で推移。東日本大震災や原発事故で広がった敬遠ムードは着実に落ち着きを取り戻し、このペースで年間外国人客数が伸びれば、2013年は通年で1019万6888人に達するという計算。目標の年間1000万人を初めて達成する可能性が膨らんでいる。
さらに11、12、13年の月別訪日外国人客数の推移を見てみると、その回復ぶりがよく分かる。訪日外国人客数は東日本大震災が起きた11年3月以降、大幅に減少し、特に4月は29万5826人と前年同月比で63%減を記録するなど、12年2月まで前年を下回る状態だったが、12年3月以降は前年実績を上回る拡大傾向が続いている。
では、どの国・地域からの訪日外国人客数がよく増えているのだろうか?
詳しく調べると、興味深い傾向が読み取れる。
中国からの旅行者は減少続き
表は13年1~7月と12年1~7月の訪日外国人客の国・地域別の実数と増減。
日本政府観光局が推計値を算出した18の国・地域の中で中国だけが減少(28%減)しているのが目立つ。一方、全体の2割強を占める最大の韓国人旅行者をはじめ、残りの17の国・地域についてはどれも前年を上回る増加傾向を示している。
「沖縄県の尖閣諸島を巡る日中関係の冷え込みで中国からの旅行者数は減少したまま。航空路線の運休、減便に加え、大型クルーズ船を利用した旅行者も減り、団体客を中心に回復が大幅に遅れている」と小堀さん。全体に占める中国人旅行者の割合も前年の19%から11%に落ち込み、関係悪化の深刻さを改めて浮き彫りにした格好だ。
ビザ緩和やLCC・チャーター便増が後押し
対照的に伸び率が高いのが台湾(49.3%増)、香港(47.2%増)、タイ(56.2%増)、インドネシア(43.1%増)、ベトナム(53.1%)など。7の国・地域で3割増以上の伸びを見せ、特に台湾と香港は単月としても過去最高の訪日客数を記録するなど、日本への旅行ブームを下支えしている。
「円安による割安感に加え、チャーター便や格安航空会社(LCC)の日本路線が増え、日本への買い物客やテーマパーク、観光地への旅行者が大幅に増えた。また7月からタイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアの東南アジア5カ国に対するビザの発給要件を緩和したことも寄与したようだ」(小堀さん)
政府は東南アジア以外でもビザの発給要件緩和を検討している。また日本政府観光局は10月ごろにもインドネシアのジャカルタに事務所を開設する予定。日本への旅行ブームをさらに後押しする考えだ。
カギ握る中国、国慶節の動向を注視
今後の趨勢を占うカギとなりそうなのが中国人観光客の動向。
「特に建国記念日である国慶節(10月1日)の休暇で中国人旅行者がどう動くかを注視している」(小堀さん)という。中国以外の訪日外国人客数が大きく伸びており、これに中国人の旅行者が加わるのならば、増加傾向にさらに弾みが付くからだ。
尖閣諸島の国有化から1年を迎える9月11日以降、日中関係がどう推移するかが一つの試金石になると見ている。
ところで、訪日した外国人旅行者は日本国内のどこを訪れているのだろうか?
2012年の外国人よる都道府県別訪問率上位5位(観光庁調べ)を並べてみると、1位が東京(51.3%)、2位が大阪(24.0%)、3位が京都(17.3%)、4位が神奈川(12.7%)、5位が千葉(9.8%)の順だった。特に韓国からの旅行者には地理的に近い九州地区、台湾や香港からの旅行者には北海道地区の人気が高い傾向があるようだ。
「北海道は夏は涼しくて過ごしやすいし、冬は雪景色がきれいでスキーや温泉などのリゾート施設も多いので南方の台湾、香港の人には特に人気が高い」(小堀さん)そうだ。
日本33位 外国人訪問者はフランスの10分の1
では、日本は「観光立国」として世界でどの程度の位置付けなのだろうか?
最後に世界で外国人訪問者数が多い国・地域のランキングを上位40位まで見ておこう。
トップはフランス(8301万8000人)。次いで米国(6696万9000人)、中国(5772万5000人)、スペイン(5770万1000人)、イタリア(4636万人)、トルコ(3569万8000人)、ドイツ(3040万8000人)、英国(2928万2000人)、ロシア(2573万6000人)、マレーシア(2503万3000人)の順。
日本(835万8000人)は33位で、年間外国人訪問者数はトップのフランスの10分の1にとどまっている。23位の韓国(1114万人)よりも残念ながら少ないのが実情。
日本が「観光立国」になるまでの道のりはまだまだ長いと言えそうだ。
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