出勤前に座禅→スイカ割り…とことん遊んで気分転換
「エクストリーム出社」同行ルポ
5時20分、北鎌倉駅に集合
8月30日午前9時25分。通勤客らが無言ですれ違う東京・八丁堀のオフィス街を小走りで急ぐ1人の男性がいた。白いワイシャツに黒のズボン、しかし靴にはまばらに残る砂の跡。「では、行ってきます!」。朝からテンションは最高、充実感に満ちた天谷窓大さん(29)の笑顔の理由は4時間ほど前にさかのぼる。
東京都心から南西に約50キロ、神奈川県・北鎌倉駅に、天谷さんと友人の会社員、椎名隆彦さん(34)が集まったのは5時20分。自宅を出発したのは椎名さんが4時、天谷さんは漫画喫茶で前泊だ。「一回やってみたかったんだよね」と向かった先は古刹、円覚寺。この日のエクストリーム出社は座禅から始まった。
エクストリーム出社は今年7月、2人の雑談の中から生まれた。出社報告ツイートの閲覧数は多い回で10万近くに上るほどだ。
1時間の座禅の後、由比ヶ浜でスイカ割り
1時間の座禅の後、2人が降り立ったのは散歩する人もまばらな由比ガ浜の海水浴場。「今、7時すぎ。45分までには出発だな」と水平線を見つめると、慣れた手つきで椎名さんはズボンの裾をまくり、天谷さんはトランクス1枚に。物も言わず海へと走り去った。
波が打ち寄せる浜辺で海草を拾って頭にかぶり、恋人同士のように水をかけ合う姿は、記者には寄りつけない雰囲気。「いやー、楽しかった! 30分くらい遊んだ気がするね」と満足げに浜に戻ってきた2人だが、水中にいた時間はわずか5分程度。時間が濃密に過ぎていく。
続くはお約束のスイカ割りだ。椎名さんがおもむろに手に取ったネクタイは、目隠しに早変わり。「もうちょっと左! 後ろ!」。空振りするだけで、2人は爆笑の渦だ。5回目のトライでスイカが砂浜に乱れ飛ぶなり、勢いよくかぶりつく天谷さん。犬並みのスピードで次々平らげると、感極まって「俺は今、社会人から一番遠いところにいる!」と突然の宣言。この非日常感がエクストリーム出社の醍醐味なのだろう。
午前8時、締めはラーメン
かつては「単調な毎日に飽き飽きしていた」という2人だが、エクストリーム出社の凝縮された楽しさは「休みを取るよりずっと気分転換になる」と話す。
朝とはいえ、締めはやはりラーメン。「8時12分に出る電車に乗らなきゃ」と急ぎ足で鎌倉駅前の食堂に着いたのは8時前。「うまい! 朝でもうまい!」。熱々のラーメンを2人とも5分足らずで完食だ。「楽しんだからこそ、遅刻は厳禁」。大急ぎで駅に向かうと、それぞれ電車に乗り込み、職場へと消えていった。
カヌーで激流下り→温泉→出社の人も
エクストリーム出社の輪は広がり、様々な「チャレンジ」が増えている。大田区の自宅から横須賀に逆走、フェリーで南房総に渡って東京まで北上する「東京湾逆周通勤」に挑戦した会社員男性(34)は「『朝活』に仕事一辺倒のバランスの悪さを感じていた人には、ぴったりの過ごし方」と話す。
9月2~6日には発案者2人の呼びかけに呼応した日本中の会社員らによる全国一斉エクストリーム出社大会が開催された。大会前の時点で100組以上がエントリーしており、ツイッターでは「カヌーで激流下りをしてから温泉に入り出社」などの出社報告が続々集まっている。
(高倉万紀子)
[日経MJ2013年9月4日付]
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