ポケット裏返ってるよ いいえ最新ファッションです
スピルバーグ、1989年にブーム予言?
中高年はゴルフ場のネタに
「前はペンや小さなメモ帳を入れていたけど、今はスマホ1台で代用できる」。猛暑の中、買い物をする若者でにぎわう東京・原宿。仙台市の大学生沼田竜也さん(20)はこの日、洋服を買いに上京した。お目当ては、胸ポケットの中の布を引き出すと裏地が舌マークになるTシャツだ。
半年前から同じデザインのチノパンを愛用している。ポケットには何も入らないが「特別不便だとは思わない」。スマホは落としたくないからリュックに入れる。「ポケットが膨らんでいると格好悪い。最近は切符を入れるだけ」と話す。東京・墨田の会社員男性(28)も「禁煙してから胸ポケットに入れる物が無くなった」と、同様のシャツを購入していた。
このおちゃめな顔が印象的なデザインは、衣類卸会社「アップスタート」(東京・目黒)が2009年から展開しているオリジナルブランド「アップスマイル」シリーズだ。
ポケットの中を出すという発想の転換が話題になり、今年に入ってから注文が急増。シリーズ単月の売り上げは1億円で、今年の売上高は09年比4倍の見込みだ。
商品を企画した同社の高橋邦明企画生産部長は「ポケットは機能性よりもデザイン性の時代」と話す。発売当初は50~60代の男性からは「ポケットを出すなんてだらしがない」との反応だったが、最近は彼らからもポロシャツの注文が相次ぐ。「ゴルフ場でネタになる」という声が多いという。9月にニット帽や財布など小物を投入し、来年は子供服も発売する。
バック・トゥ・ザ・フューチャーに登場
実は「見せポケ」ブームは映画で予言されていた。1989年に公開されたスティーブン・スピルバーグ製作総指揮の「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」。マイケル・J・フォックス演じる主人公のマーティが30年後の2015年にタイムマシンで旅立ったとき、相棒のブラウン博士から「この時代はポケットの内側を外に出して見せるのが流行なんだ」と教えられるシーンがある。
「見せポケ」の仕掛け人たちがこの映画を参考にしたかどうかは不明だが、ネットの口コミサイトでは「スピルバーグが未来を予言した」と話題になっている。
広がる「見せポケ」ブーム。既製品だけでなく、自分で見せ方を工夫する人も現れた。裏地を自分の好きな生地に付け替えるなど、見せるポケット「見せポケ」の作り方を紹介するインターネットサイトも登場してきた。
岐阜県美濃加茂市の会社員、西尾智美さん(24)のお気に入りのショートパンツは他とはちょっと違う。ざっくりと切りそろえたパンツの裾からは、ポケットの裏地がちらり。「何も入れずに膨らんでいない裏地を見せるのがカワイイ」とほほ笑む。
東京・目黒の会社員女性(27)は外から見える裏地の部分に自分でチェック柄や花柄の生地を縫い合わせた。縫い方はサイトを参考にしたという。
「ポケットをアレンジするだけで、ただのデニムがオリジナルになる」と満足そうだ。以前はポケットに小銭を入れていたが、最近は電子マネーを利用するため入れる物がなくなった。
ファッションジャーナリストの藤岡篤子さんによると、最近は男性も花柄など派手なポケットの裏地を好むといい「アイコンとしてのポケットを強調するデザインが増えている」。シルエットが崩れるのを防ぐために何も入れない人が多い女性の間でも「ポケット重視のデザインは広がりそう」と見る。ポケットを使った多彩なファッションを目にする機会はますます増えそうだ。
(中藤玲)
[日経MJ2013年8月23日付]
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