乳がん遺伝子検査、女性の7割「知らなかった」
A・ジョリーさん手術 読者調査
米女優アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のため、乳房の切除・再建手術を受けたという告白は日本でも反響を呼びました。日経電子版が実施したアンケート調査では、今回の報道をきっかけに女性、男性とも乳がんへの意識が高まった様子がうかがえました。
遺伝子との関係、女性の6割「知っていた」
アンケートは男女共通の質問と男女別々の質問を用意して、5月30日~6月3日に実施。421人(女性300人、男性121人)から回答を得ました。
ジョリーさんの今回の選択についての感想を尋ねた男女共通の質問では、男性からは「乳がんについて考える機会になった」との回答がもっとも多く、女性からは「勇気のある行動だ」との回答が最も多い結果となりました。ジョリーさん自身も今月2日、「女性の健康をめぐる議論が広がり、とてもうれしい」とコメントしています。
パートナーで俳優のブラッド・ピットさんが「今回のことは家族の絆を確実に強くしてくれた」と語ったこともあり、女性だけの問題ではない、という意識も高まったようです。
女性読者には、今回の報道の前から乳がんに遺伝子が関わっているケースがあることを知っていたかを尋ねました。60%が「知っていた」と回答しました。「知っている」と回答した方のコメントでは、「がんは生活習慣によるものが一般的で、遺伝が関わるものは少ないと知っていたが、これを機により詳しくなった」(49歳・女性)、「知らなかった」と回答した方からも「がんにかかりやすい家系があることは聞いたことがあるが、遺伝子レベルの話とは知らなかった」(33歳・女性)というコメントがあり、告白をきっかけに知識が深まったという人が多かったようです。
今回の報道の前に遺伝子検査が実施されていることを「知っていた」方は28%にとどまりました。次いで予防切除という対処法があることを知っていたか尋ねたところ、「知っていた」と回答したのは25%でした。
乳がんに罹患された方から「(日本でも予防手術が実施されているのなら)受けたかった」というコメントもありました。
回答総数 | 421 |
---|---|
女性 | 71% |
男性 | 29% |
20代 | 5% |
30代 | 21% |
40代 | 36% |
50代 | 22% |
60代 | 13% |
70代 | 2% |
80代以上 | 0% |
予防切除 保険適用望む声も
ジョリーさんの決断について感じたことを、複数回答で尋ねたところ、女性読者では「勇気のある行動だ」という回答が47%と最も多く、次いで「乳がんについて考える機会になった」(45%)、「経済的にゆとりがあるからできる選択」(43%)と続きました。
「自身が母親をがんで亡くしている経験から、自分が乳がんになって子供たちにつらい思いをさせることのないように、という我が子を守る母親の強さを感じた」(35歳・女性)
「自分は知っていたが、報道で初めて知った人も多いと思う。こういう選択肢があるということを周知させたという意味で,彼女の選択とその公表は良かったのではないか」(38歳・女性)
公表したことで多くの人が改めて乳がんについて考えるきっかけになったこと、子どもを持つ母親としての姿勢を思う意見が多数見られました。
一方で、予防措置としての切除という方法自体に対する不安の声もみられました。「経済的に余裕があるからできる選択」と選んだ方からは、保険適用を強く望む声も寄せられました。また、手術を受けたことによるリスクについてもっと詳しく知りたいという意見や、手術を過信せず、これまで確立された検診や食生活の見直しも重ねていくべきだ、といった意見も寄せられました。
男性「乳がんについて考える機会になった」
男性読者では「乳がんについて考える機会になった」という回答が47%と最も多く、次いで「経済的にゆとりがあるからできる選択」(33%)、「勇気のある行動だ」(32%)と続きました。
「女性特有のがんについて考えさせられる。もしパートナーがそのような選択をしたときは、尊重したいと思う」(45歳・男性)
「選択肢があることは良いことだと思う。命に関わる問題であり、他人がこの選択を批判はできない」(50歳・男性)
乳がんへの意識を高めたとする声が多いなかで、男性からは健康な生身の体を傷つけることへの疑問を示すコメントもありました。
ジョリーさんの場合は「乳がんの発生率が87%」というきわめてまれなケースで「すべての女性に正しい選択とは限らない」と執刀医も強調しています。
ただ、行政や医療機関を含めて今後の啓発活動や乳がん対策を改めて考える契機になったことは間違いないようです。
ジョリーさんの報道と前後して、日本でも医療サイドの動きが報じられました。
聖路加国際病院(東京・中央)に続き、がん研有明病院(東京・江東)、相良病院(鹿児島市)が予防切除手術を院内の倫理委員会に申請しました。がん研有明病院は4日、7月にも卵巣がんなどの予防のための卵巣摘出手術を厚生労働省に申請することを発表しています。
一方、遺伝子検査、予防手術ともに医療保険行為と認められず高額なため、万人のための選択肢になっていないのが実情です。20代、30代で乳がんを発症するケースも少なくありません。しかし、若年層の検診は誤診の確率が比較的高いとされることもあり、自治体の無料検診は多くが40歳以上が対象となっています。
一連の報道を受け、乳がんに関する医療機関への問い合わせが増えています。受診者の意識の変化が医療機関、自治体の取り組みへどのように反映されていくのか注目されます。
(電子報道部 松本千恵)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。