分身「うなえ」の旅からひらめく
「ぬいぐるみ」の持つ価値に気づいたのは6年前だ。うなぎが好きで、よくウナギ釣りをした。ふとタオルでウナギのぬいぐるみを作り、「うなえ」と名づけ、自分の分身としてブログに登場させた。やがて「うなな」「鰻鰻(ウーウー)」「ウナーシャ」と仲間が増え、彼らの「生活風景」を演出した写真がブログの顔になっていく。
あるとき友人から「米国に出張するから、うなえを連れて行ってあげるよ」と申し出があった。預けると、現地から写真を送ってくれた。友人の視点で撮られた自分の分身の写真が新鮮だった。
「こうした経験は、楽しみ、喜び、学びになるのではないか。特に、事情があって自分で旅をできない人にとっては」。まず知人向けの趣味的なサービスとしてスタートし、半年あまり前から本格的に外からの依頼を受け始めた。料金は「1人」3000円から4000円くらい。これまで累計で200人近くが利用した。9割が女性。30代から40代が多い。
「ぬいぐるみの可能性は大きい」。最近、そう感じている。東日本大震災の被災地で仮設住宅をぬいぐるみたちと訪問するツアーも手がけている。訪れる先は、靴下などでぬいぐるみを作り、販売する女性たち。人間が大勢で行くより、双方にとってハードルは低いと感じる。支援の意味を込めて手製の作品を購入し、預かったぬいぐるみと返送するときに一緒に届ける。
スカイダイビング、墓参り…… 広がる舞台
車いすで暮らす依頼者からは、上京する機会に「会いたい」と申し出があった。利用者同士の会話がフェイスブックで始まった。ぬいぐるみが現実の人を結んでいく。京都と北海道、さらに欧州でも協力者が名乗り出てくれた。うまくいけば「旅」の舞台が広がる。
旅の内容も、いずれスカイダイビング、墓参り、世界一周などへと、どんどん広げたいと思う。ぬいぐるみが、自分が行けないところに行き、できないことをやる。関心が広がる。心が癒やされる。可能であれば、いずれ自身でも追体験する。そうした流れをつくっていきたい。「誰かの心に突き刺さるサービスを作ってみたい」。昔抱いた夢が、少しずつ形になってきた。