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ぬいぐるみと旅する女 出かけられない人たちの夢を代行

女子力起業(2)

編集委員 石鍋仁美

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NIKKEI STYLE

「押絵と旅する男」といえば、作家・江戸川乱歩が「私の短編のうちでももっとも気に入っているもののひとつ」と自負する小説だ。夕暮れ時、海岸沿いを走る列車の窓際。押し絵を外向きに立てかけ、額の中の人間たちに風景を見せている男がいる。不思議に思った主人公が近づくと、男が説明を始める。描かれた人間の正体は……。そんな幻想小説だ。

ちなみに押し絵とは、紙や布に綿を詰めて人や花の形を作り、板などに張り付けたもの。平面の絵画と立体である人形やぬいぐるみとの中間的な作品だ。

果たせぬ思いをぬいぐるみに託す人々

今回紹介するウナギトラベル(東京・世田谷)を立ち上げた東園絵さん(38)が働いている姿も、知らない人から見れば、乱歩の小説に登場する男のように奇妙なものに映るかもしれない。何体ものぬいぐるみをカバンに詰めて持ち歩き、実際に列車の中で窓際に並べて彼らに風景を見せたり、公園で弁当を囲ませたりして、それを逐一、写真に撮るのが仕事なのだから。「先日も、街で警察の方に職務質問をされました」と笑う。

ウナギトラベルは「ぬいぐるみのための旅行代理店」を名乗る。旅するのはぬいぐるみだけ。だから法律上は旅行会社ではない。まず、業務の流れを、あえて無機的に説明すると、こうなる。

持ち主は、所有するぬいぐるみを東さんのもとへ宅配便などで送る。東さんは集まった何体かのぬいぐるみをカバンに入れ、時に東京都内を回り、時に列車で遠出をし、観光して歩く。各地の風景などを背景にぬいぐるみたちの写真を撮り、自社のフェイスブックに掲載する。持ち主はそれを見て楽しむ。ツアー終了後は、写真を紙焼きとCD-ROMにして、ぬいぐるみと共に持ち主へ送り返す。これで完了だ。

この説明で、ふだんお気に入りのぬいぐるみと暮らしている人は「なるほど」と思うだろう。そうでない人は「?」という感じかもしれない。

ツアーを申し込む人にとって、ぬいぐるみは単なるモノではない。ある人には、病気や忙しさなどで自由に動けない自分の分身。またある人には、亡くなった最愛の人の代わり。小さいときから一緒に生きてきた無二の親友という場合もある。ぬいぐるみのことも、「これ」ではなく、大抵は「この子」と呼ぶ。東さんのもとへ送るときに「こわれもの」や「天地無用」で送ってくる人もいる。

車いすで暮らす人からの申し込みもあった。「自分の分身が自由自在に歩き、階段を自分の足で登り、同行する仲間と平等、対等に、丸くなって食事をしている。そんな姿を見たい」。そう申込書にあった。写真を送ると、感謝の手紙が来た。「自分も早く元気になって、同じ場所を旅したい」

米国からの"旅行客"もご案内

海外からの利用者もいた。黒沢映画が好きな米国人。「自分に代わり、お気に入りのぬいぐるみに日本を観光してきてほしい」。そういう依頼だった。日本茶を飲み、日本語の新聞を読み、相撲のけいこ場を訪れる。そんな写真をたくさん撮影した。いずれ自分自身で日本を旅したい。そう思うきっかけになればと東さんは願う。

だから東さんの写真は、単なる記念写真ふうの構図、つまり名所を背景に1列に並んで、というものとは全く違う。生き生きと動き、食べ、語り合っている様子を、友達が横から、ちょっと写しました。そんな自然な絵柄を演出する。ぬいぐるみ自身はもちろん動かない。構図や写し方を工夫して動きを出すのだ。持ち主には、それぞれの「子」の性格や習慣をあらかじめ教えてもらう。それに基づき、活発なら活発に、おとなしい子はおとなしくと、ストーリーを組み立て、写真を撮る。

依頼者の思いをくみ取る感受性と、現場でのきめ細かい工夫やアイデア。両方が必要となる。手の込んだ仕事といえる。

東さんは、一直線に「起業」に向かって歩いてきたわけではない。10代のころは難民問題に関心があり、高校時代にはボランティアにも参加。国際機関への就職を希望し、上智大学では国際関係論を学んだ。ケニアの難民キャンプにも1カ月滞在。「まず、世界をマクロに見る視点を身につけたい」と、金融機関に進路を変え、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に総合職として就職。1998年のことだ。

しかし金融業界には逆風が吹いていた。アジア通貨危機に山一証券の破綻。就職先も国際業務を縮小していく。2年目にドイツ証券の調査部門に転職し、証券アナリストとして3年半勤務。海外出張も多い。「あまりの激務でリセットしたくなり」、アジア経済を本格的に学ぼうと早稲田大学大学院へ。

出会いとつながりが変える旅の意味

銀行員だったころ、ITやゲームなどの分野で、銀行やコンサルティング会社の出身者がどんどん起業していった。「すごいなあ」と思っても、自分も、とは思わなかった。

しかしドイツ証券で海外出張を繰り返す中で、ふと「旅」で起業できないか、という思いがわく。出張といえば仕事、買い物、食事。それだけでなく「現地の人などと、いい出会いの機会があり、つながりが増える仕組みがあれば、旅というものの意味や価値が上がるのではないか」。

大学院時代には「付加価値のある旅」のビジネスプランをまとめ、起業家が集まる国際会議で見てもらったことも。そうした中で「自分も、人をつなげる仕事で、何か起業したい」との思いが育つ。コンサルティング会社を経て7年前に独立。東京・品川にあった洋館にオフィスを構え、日本に住む外国人起業家と日本人が交流する場を提供するというビジネスや、女性起業家の集まるイベントの運営などを手がけた。

分身「うなえ」の旅からひらめく

「ぬいぐるみ」の持つ価値に気づいたのは6年前だ。うなぎが好きで、よくウナギ釣りをした。ふとタオルでウナギのぬいぐるみを作り、「うなえ」と名づけ、自分の分身としてブログに登場させた。やがて「うなな」「鰻鰻(ウーウー)」「ウナーシャ」と仲間が増え、彼らの「生活風景」を演出した写真がブログの顔になっていく。

あるとき友人から「米国に出張するから、うなえを連れて行ってあげるよ」と申し出があった。預けると、現地から写真を送ってくれた。友人の視点で撮られた自分の分身の写真が新鮮だった。

「こうした経験は、楽しみ、喜び、学びになるのではないか。特に、事情があって自分で旅をできない人にとっては」。まず知人向けの趣味的なサービスとしてスタートし、半年あまり前から本格的に外からの依頼を受け始めた。料金は「1人」3000円から4000円くらい。これまで累計で200人近くが利用した。9割が女性。30代から40代が多い。

「ぬいぐるみの可能性は大きい」。最近、そう感じている。東日本大震災の被災地で仮設住宅をぬいぐるみたちと訪問するツアーも手がけている。訪れる先は、靴下などでぬいぐるみを作り、販売する女性たち。人間が大勢で行くより、双方にとってハードルは低いと感じる。支援の意味を込めて手製の作品を購入し、預かったぬいぐるみと返送するときに一緒に届ける。

スカイダイビング、墓参り…… 広がる舞台

車いすで暮らす依頼者からは、上京する機会に「会いたい」と申し出があった。利用者同士の会話がフェイスブックで始まった。ぬいぐるみが現実の人を結んでいく。京都と北海道、さらに欧州でも協力者が名乗り出てくれた。うまくいけば「旅」の舞台が広がる。

旅の内容も、いずれスカイダイビング、墓参り、世界一周などへと、どんどん広げたいと思う。ぬいぐるみが、自分が行けないところに行き、できないことをやる。関心が広がる。心が癒やされる。可能であれば、いずれ自身でも追体験する。そうした流れをつくっていきたい。「誰かの心に突き刺さるサービスを作ってみたい」。昔抱いた夢が、少しずつ形になってきた。

 大勢の人に威張りたい。ライバルをつぶしたい。全国制覇、世界制覇をしたい……。そんな従来の起業家の原動力とは、全く違う志で起業やビジネスに取り組む女性たちが目立ちます。仕事を楽しみ、自分や周囲の悩みを解決するために起業し、共感や感謝の声を「次」への元気につなげる。そんな新世代の女子力起業家の生き方を紹介していきます。

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