2013/6/4

ダイレクトメッセージ

人が真剣に変わろうとすると、その「思い」は通じるものです。ちょうどそのころに出会うことができたのが大学教授や医師らスポーツ医学・運動生理学に詳しい方々。みなさんに教えていただいたことは、投球をする前提となる体のしくみ、体が進化するためのトレーニングのあり方です。

例えば、ピッチングには、大胸筋や三角筋などボールを投げるためのパワーを生む筋肉だけでなく、それらの筋肉の内側にあって関節を安定させる棘(きょく)上筋、小円筋など肩や股(こ)関節の周りにある小さな筋肉の働きが極めて大切なのです。私は球を投げるために必要な筋肉や骨の名前、役割をひとつずつ、着実に学んでいきました。

握手の手をさしのべると、西武ライオンズの後輩も恐縮……

酒びたりだった日々は、私がプロで築いた貯金を取り崩すようなものでした。それがあまりにひどい危機をもたらしたために、私は肉体・知識の両方で“自己投資”することの大切さに目覚めたのです。

95年に移籍したダイエーホークス(現ソフトバンク)時代からは自宅と同じマンションに、もうひと部屋借りるようになりました。ナイターが終わった後にトレーナーの方にマッサージをしていただくためです。

これは10年以上、続きました。部屋には血行促進に効果があるという低周波治療器や、ゲルマニウムを使った温浴機器などもそろえました。自分の体に耳を傾けることがごく普通のこととなり、ケガが起きるかもしれない、という予兆の段階で自分の体調を自覚できるようになっていきました。

30年近く厳しいプロの世界の中で生きてこられたのは、私に最初から自覚やノウハウがあったからではありません。若いころに遊びほうけて人生のがけっぷちに立たされた痛烈な危機感があったればこそです。「ここで生きていきたい」「もっと知らなきゃいけない」というプロ意識はどん底の恐怖感を経て養われました。

プロの世界に長くいられた秘訣がもう一つあります。それは自分自身の「データ分析」です。

ダイエー時代、私は過去の投球データを徹底的に洗い直しました。試合のビデオも見直しました。カウント別の配球、決定打を許したときの決め球……。例えばライト打ちがうまい右バッターと対戦しているとき「ランナーを背負っているから、詰まった打球を打たせよう」と簡単にインサイドを攻めるのは極めて危険だ、ということが客観的に理解できました。打たれるのには理由があったのです。

これに私なりの経験を加え“工藤流データベース”を構築していきました。例えばスライダーを狙っている右打者が、狙いに反して直球が来ると、一塁ベンチの上空方向へのファウルになるケースが多いものです。アウトコースを待っているとき、内角に投げられると普段よりも派手によけるものですが、そのよけ方の癖はバッターによって微妙に違うのです。そのほんの小さな動きや反応で打者の狙い球やどこに打とうとしているのかがわかるようになったのです。

注目記事