奇想際立つ佐々木想の短編 「隕石とインポテンツ」
カンヌ映画祭リポート2013(13)
地球に接近した巨大な隕石(いんせき)が空にとどまっている。男はもう何年も妻を抱けないでいる。自信を失った男は、再び立ち上がることができるのか……。
短編コンペティション部門に選ばれた佐々木想(おもい)監督「隕石とインポテンツ」は奇怪だが力強い作品である。22日に短編の全作品がプレス向け上映されたが、粗削りながらも、イメージの奔放さでは際立っていた。
カンヌ入りしたばかりの佐々木監督に23日、話を聞いた。この作品を発想したのは去年の夏。「一昨年の震災や原発の問題はまだ収束しているわけではない。それなのに忘れないと生きていけない。そんな状況の危険性を描こうと思った」
上空にあるけれど一向に落ちてこない隕石。「最初は大騒ぎしていたのに、人々はやがて関心を払わなくなる。頭のすぐ上にある危険を気にとめずに生きてしまっている」。震災を隕石に象徴させ、現代日本の状況を描いたというのだ。
インポテンツ(性的不能)については「自分が性的なものに自信を失っていたからなのですが……」と照れながら、「日本人全体が自信をなくしているのではないか」と語る。
35歳。山口県に生まれ。早稲田大学在学中に、流山児祥の劇団で役者となる。「演劇をやりながら、映画もやってみたかったが、何をやればいいのかわからなかった」。とりあえず「金をためよう」と思って、自動車工場が多い東海地方に行き、解体業者やパチンコ店で住み込みとして働く。
失恋で踏ん切りがついて東京に戻ったのは26歳。演劇ぶっくが主催する映画制作のセミナーで学び、自主映画を撮り始める。ぴあフィルムフェスティバルに入選した「LEFT OUT ぴゅーりたん」(2009年)は、バンクーバー国際映画祭にも出品。これまで4本の長編を自主製作している。
「隕石とインポテンツ」は経産省の人材育成プロジェクトに企画を提出し、助成を受けた。製作費は150万円。2日で撮った。普段は結婚式の撮影などアルバイトで食べている。カンヌに選ばれたのには「驚いた」。
隕石は紙で作ったものをグリーンの背景で撮影し、合成するという昔ながらの特撮の手法で撮った。隕石の下、男女がススキの野原を駆けていくシーンが美しい。「知り合った女性が土手が好きな人で、江戸川を案内してもらったんです」と、とつとつと話す。
「考えている企画は?」と聞くと、「男がいらなくなった社会を描いてみたい」と答えた。「人間でも単為生殖が可能になり、男性がいらなくなった社会で、男性はどう身を処すのか。夫婦というものはあり得るのか」
これまた奇想だ。「何年も彼女がいなくて、遺伝子レベルで必要とされてないんじゃないかと思ったので」と真顔で答える。これからも型にはまらず、どんどん冒険してほしい。
(カンヌ=編集委員 古賀重樹)
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