安倍政権がマンガやアニメ、食、ファッションなど日本文化を海外に売り込むために力を入れている「クール・ジャパン戦略」。その目玉の一つに位置付けられてきたインド版アニメ「巨人の星」のテレビ放映が、来月16日で計26話の「第1シリーズ」を終了する(毎週日曜放映。第1話は昨年12月23日)。
日本国内のコンテンツをリメークして輸出する試みとして鳴り物入りでインドでの放映を開始した同番組だが、果たして現地の視聴者にどう受け止められているのだろうか?
番組制作に協賛した日本企業の対インド市場戦略はどうなっているのか?
同アニメを巡る関連ビジネスは今後、どんな道筋をたどるのか?
今回は、同アニメの舞台に設定されたインド最大の経済都市、ムンバイに飛び、現地から最新情報を紹介する。
「ローカライズ」したモデル事業
5月12日。日曜日の朝10時。ムンバイ中心部のコラバ地区。
窓の外に広がる緑青色のアラビア海を眺めながら、宿泊先のホテルでテレビのスイッチをつけると軽快なリズムの音楽が聞こえてきた。日本の高度成長期にヒットした「巨人の星」(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)をインド向けにリメークした日印共同制作アニメ「スーラジ ザ・ライジングスター」のテーマソングだ。
貧乏な少年が父の厳しい特訓を受け、ライバルと競い合い、スター選手を目指すというサクセスストーリーは原作「巨人の星」とほぼ同じ。ただ、このアニメの中では(1)スポーツを野球からクリケットに(2)舞台を東京からムンバイに(3)主人公を星飛雄馬からインド人の少年、スーラジ(ヒンディー語で「太陽」)に――と設定を大胆に置き換えているのが最大の特徴。
【登場人物】 |
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★スーラジ(星飛雄馬) |
ムンバイのスラム生まれ。才能豊かなクリケット選手 |
★シャーム(星一徹) |
スーラジの父。クリケットの元インド代表候補 |
★シャンティ(星明子) |
スーラジの姉。母親の死後、家族の中心的存在 |
★ヴィクラム(花形満) |
スーラジのライバル。天才クリケット選手。財閥の御曹司 |
★パプー(伴宙太) |
スーラジと出会うことでサッカーからクリケットに転向 |
通常、日本のアニメ作品はセリフだけを吹き替えて海外に輸出されているケースが多いが、この作品は輸出先のインドでも浸透しやすいように舞台、登場人物などを大幅に手直しする「ローカライズ」という手法をとったことで内外から大きな関心を集めた。
日本のアニメに比べると、確かに人物の動きや描写が“インド風”にアレンジされているようだ。ただ、言葉がよくわからなくてもストーリーは何となく理解できる。
高度成長、根性、クリケット……
ところで、皆さんはクリケットについてどのくらいご存じだろうか。
クリケットとは英国古来の球技のこと。コルク芯に糸を巻き、皮で包んだ赤いボールと、櫂(かい)のような形のバットを使い、投手が投げたボールを打者が打ちながら、2カ所にあるウィケット(横木をのせた三柱門)の間を走ることで得点を競うスポーツ。
ルールはかなり異なるが、見かけだけなら、野球に似ていないこともない。
【今までのあらすじ】
ムンバイのスラム生まれの少年スーラジが父の厳しい特訓を受け、ライバルと切磋琢磨(せっさたくま)しながら超人的なコントロールと速球を武器に持つクリケットのボウラー(投手)に成長するという成功物語。スーラジは強いクリケットチームを持つ私立学校に入るが、全国選手権決勝でヴィクラムのチームに敗北してしまう。その後、プロチーム「ムンバイ・チャンピオンズ」の2軍で下積み生活を始めるが……。