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自伝的映画に映る世界史 R・パニュとM・オフュルス

カンヌ映画祭リポート2013(7)

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NIKKEI STYLE

誰もが独自の物語をもっている。それは自分の生い立ちの物語である。映画作家が自分の半生を振り返りながら、世界史をあぶりだす。そんな映画に立て続けに出合った。

ある視点部門で19日上映されたカンボジアのリティ・パニュ監督「失われた映像」は、1964年生まれのパニュの個人的体験に沿って、クメール・ルージュが支配した70年代後半のカンボジアの悲惨な歴史を映し出す。

冒頭、缶に入ったまま劣化したフィルムが散乱する部屋が映し出される。パニュは長年、クメール・ルージュの時代の映像を探してきた。ボロボロのフィルムを丹念に取り出し、まだ見られる部分を復元していく作業をカメラは追う。

映画はそうやって発見されたフィルムを随所に挿入している。たくさんの子どもたちが集団で農作業をする映像、ポル・ポトが中国共産党の幹部と談笑するニュース映像、クメール・ルージュ側と見られるゲリラが敵の兵隊を貧弱な武器で撃退する劇映画……。

もちろん、そんな映像だけで大量虐殺を描き出すことはできない。敗者は映像を持たないからだ。

ただ、歴史を考えるきっかけにはなる。例えば、共産主義を礼賛するプロパガンダ映像と共に、アポロ11号の月着陸はでっち上げだと教えられたというナレーションが入る。滅び行く資本主義国家アメリカというイメージが国家によって刷り込まれていたのだ。

クメール・ルージュの迫害のために、パニュとその家族がたどった悲惨な物語は、主に素朴な土人形によって再現される。あたかも子どもの絵本のように。

知識人だった父親の下で育ったパニュ少年の平穏な暮らしは一変する。歌や踊りは禁止され、服からあらゆる色彩が消える。めがねや時計、おもちゃや本はすべて没収される。フィルムは焼かれる。個人という存在は認められず、単なる頭数でしかなくなる。

食べ物が減っていく。水さえも足りなくなる。家畜と同じものを食べることを拒んだ父は自ら餓死を選ぶ。日々死んでいく者を埋葬する。ついには虫や木の根を食べるようになる。禁を犯して魚を捕って帰った日に、弱り切った母も死んでしまう。

そんな土人形によるドラマの合間に、死んでいった家族や友人たちの写真や、ゴーストタウンと化したプノンペンの中心街の映像がはさまれる。抽象化された人形と具体的な映像が響き合って、見る者の想像力をかきたてる。

ハリウッドの戦争映画がいくら潤沢な予算をかけて虐殺や拷問を描いても、それはしょせん絵空事でしかない。一方のパニュは歴史の生き証人として実体験を語りながら、土人形と古い映像という限られた素材だけで、映像を構成する。そこに虐げられた側のリアリティーがあるのだ。

山形国際ドキュメンタリー映画祭で「さすらう者たちの地」(00年)、「S21 クメール・ルージュの虐殺者たち」(02年)などが上映されたパニュはクメール・ルージュの虐殺とその傷痕を描き続けているが、一人称で自らの悲劇を語ったのは初めて。衝撃の余韻はなかなか収まらなかった。

◇            ◇

もう一つびっくりした作品があった。監督週間で17日に上映されたマルセル・オフュルス監督「旅人」だ。あの「輪舞」「たそがれの女ごころ」などで知られるメロドラマの巨匠マックス・オフュルスの息子、といっても今年で86歳のおじいさん。クロワゼット劇場の舞台に元気な姿を見せた。

日本ではほとんど紹介されていないマルセル・オフュルスだが、欧米では「悲しみと哀れみ」(69年)、「ホテル・テルミニュス」(89年)など第2次世界大戦時のドイツ占領下のフランスの現実に迫ったドキュメンタリーで知られている。「悲しみと哀れみ」はフランソワ・トリュフォーが「終電車」を撮るときに参考にしたという作品だ。

「旅人」はそのマルセルの18年ぶりの新作で、自らの半生をゆかりの映画の断片をはさみながら振り返るドキュメンタリーである。

ユダヤ系ドイツ人のマックスの人生は波乱に満ちていたが、その波乱の中でマルセルは多感な少年期を過ごす。27年にフランクフルトに生まれ、33年に父と共にフランスに移り、41年には米国に逃れる。3つの文化の中で育ったマルセルは、50年にフランスに戻り、父の遺作「歴史は女で作られる」(56年)で助監督につく。

その後、父の葬儀で知り合ったトリュフォーに推薦されオムニバス「二十歳の恋」(62年)のミュンヘン編を撮ったり、コメディー映画を撮ったりするが、さしたる成果はなく、認められるのは一連のドキュメンタリー作品からである。

父の栄光の陰に隠れた、ある意味でつつましい人生だが、その交遊はおのずと幅広い。従って引用される映画や登場する映画人は華やかだ。もちろんまずは「ヨシワラ」など父マックス・オフュルスの傑作群。同じく欧州から米国に渡ったエルンスト・ルビッチやオットー・プレミンジャーの作品。さらにはトリュフォー、ウディ・アレン、スタンリー・キューブリック……。

マルセルの半生を介して、欧州の20世紀の歴史を、そんな巨匠と共にたどれるのである。なんとぜいたくな映画体験!

(カンヌ=編集委員 古賀重樹)

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