「日本経済新聞」の屋号書家 柿沼康二

「日本経済新聞」の屋号のルーツは、奈良時代。光明皇后が書いたとされる「楽毅論」という、日本の書道史上最高峰の劇蹟に潜んでいるのではないか。

正倉院御物「楽毅論」にルーツ

光明皇后筆と伝えられる「楽毅論」

楽毅論自体は中国・東晋時代の書聖、王羲之を代表する細楷書の一つ。中国の戦国時代の燕の宰相、楽毅の不遜を魏の夏侯玄が論じた内容だ。光明皇后が中国伝来の王羲之の楽毅論を臨書し、正倉院に収められた。光明皇后の楽毅論は単なる臨書ではない。皇后自身の表現センスや人間像が浮き彫りにされているため、王羲之のオリジナルとは大きく趣を異にし、創作の意味合いを多く含む。

上田筆の「日本経済新聞」からはムンムンと、光明皇后が楽毅論に託した世界観の香りがたちのぼる。縦線を深く強い柱とし、横線をキラリ鋭く、斜画を繊細かつ味わい深く構成する。自然、調和、貫通力、立体感……。どのチェックポイントも見事にクリアし、何の矛盾もなく、そっと、強く存在している。

書家、上田桑鳩の仕立てと見立て。「日本経済新聞」の屋号は、私のように書の古典を愛する者の心を躍らせ、魅了する逸品なのである。

柿沼康二氏(かきぬま・こうじ) 書家。5歳より筆を持ち、父の柿沼翠流、手島右卿、上松一条らに師事する。東京学芸大学教育学部芸術科(書道)卒業。高校の書道教師を辞し26歳で渡米。ニューヨークで個展を成功させ、2006~07年にはプリンストン大学特別研究員としてニュージャージー州プリンストンに滞在した。「書はアートたるか、己はアーティストたるか」の命題に挑戦し続け、伝統書から特大筆によるパフォーマンスまで、多彩なパフォーマンスを展開する。NHK大河ドラマ「風林火山」や北野武監督の映画「アキレスと亀」など題字も手がける。現在は柿沼事務所代表取締役社長兼所属アーティスト。1970年7月16日、栃木県矢板市生まれ。
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