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「日本経済新聞」の屋号 書家 柿沼康二

2013/5/14

「日本経済新聞」のロゴ、いやロゴでは軽い、屋号は素晴らしい。

昭和を代表する著名書家、上田桑鳩(うえだ・そうきゅう=1899-1968年)の筆である。この屋号の由来は書家関係には知られているが、一般には知られていない。近代書道の礎を築き、「現代書道の父」と呼ばれた書家、比田井天来(ひだい・てんらい=1872-1939年)に師事した上田は天来の下、徹底的に古典臨書に励み、現在の「前衛書道」というジャンルを開拓した。わが師、手島右卿は上田とともに比田井門下で研さんを積んだ兄弟弟子。近現代の書道系譜上、この私は比田井天来系に分類される。グループは違えども、上田の作品や書道哲学には、とても親しみを感じる。

■「前衛書道」の開拓者

先人の業績にも、臨書と同じ姿勢で向き合う

上田作品はきっと、一般の方には「書」よりも絵画的で、直截なデザイン、象徴的な墨絵のような表現に見えるだろう。書かれた当時も一大センセーションを巻き起こし、まさに「前衛書」の創始者とされた表現は、天来譲りの徹底した古典臨書に裏付けられていた。

さて今回の本題、「日本経済新聞」の屋号を見てみよう。

上田ワールドの象徴である抽象かつ混沌とした表現の基盤に照らせば、この屋号は一見、とても氏の手によるものとは思えない。普段あまり表に出さなかった一面、あるいは台所事情的な舞台裏をここに、垣間見ることができる。

この屋号は当然ながら、書として「うまい」のである。うまいのが良い書でもないので「上質」と言うべきか? 私の言葉とすれば、「テクニカル」に当てはまるだろうか?

上田桑鳩筆の横題字

「可読性」。これは書家にとって永遠のテーマの一つである。絵画や音楽の場合、表現された事象が何であっても、アートとして成立する。仮に「リンゴ」の題名でバナナが描かれていても、ドラマチックな交響曲が奏でられていてもかまわない。ギャップが鑑賞者や専門家を困惑させたり、かえって強烈に魅了したりもする。

書の場合はどうしても、タイトル(題名)となる言葉や文字素材と、表現された書との一致が強く求められる。まあ私のように斜に構えた、うさんくさいアーティスト型の書家なら「タイトルと表現が違って、何が悪い!」と、声高に叫んでしまうだろう。だが世間一般的には「日本経済新聞」が「世界毎朝新聞」なんてことになったら、一大事どころでは済まされない。「日本軽済新聞」「日本経済新問」と見間違えられる曖昧な表現も、危険きわまりない。屋号や固有名詞を誤るのはビジネスマンの世界のみならず、一般常識でも最悪のミステイクだからだ。

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