見た目ラーメン、味は… おかしな「ケーキ」増殖中
意外性「味わう」
群馬県高崎市の田畑が広がるのどかな地域のケーキ店「まちのくまさん」が全国の注目を集めている。話題の中心は、ラーメン用丼に入ったラーメンそっくりの「ラーメンケーキ」(1300円)。チョコレートケーキやクリームブリュレの横に並ぶ姿が来店客の目を奪う。
モンブランの麺・スープはゼリー
ラーメンそっくりに見えても、材料はすべて製菓素材。麺はカボチャとクリで作ったモンブランでスープは紅茶のゼリー、のりは食用木炭という凝りようだ。1日限定販売数の40個を巡り注文が殺到し、現在は予約がなければ買えない。
開発のきっかけは今年2月、店主の市川健さん(48)と妻の孝子さん(41)が昼食に食べたインスタントラーメンのパッケージ。ラーメンの写真を見て「ケーキで作れる」と盛り上がり早速試作、販売を決めた。
面白がって購入した人がインターネットに投稿、あっという間に話題になり、わずか2カ月で全国から注文が舞い込むようになった。今はざるそば(700円)などに拡大、1日70個を売る人気シリーズに成長した。
「今から家族の驚く顔が楽しみ」。ラーメンケーキを購入した高崎市内の40代の自営業の男性はこう話す。家族だんらんやママ友の集まりなどで話のネタになると購入する人が多いという。
喜多方ラーメンで知られる福島県会津地方にも、ラーメンケーキがある。地元の菓子店「太郎庵」(同県会津坂下町)が直営11店舗で販売する「喜多方ラーメンケーキ」(420円)だ。こちらは直径8センチ程度の陶器に入り、やや小ぶり。多い店だと1日30個程度が売れるという。
見た目はケーキ、実はすし
アマチュアの世界で盛り上がるのは、ケーキのように見えて実はおすしの「すしケーキ」。手軽に作れ、家族にも喜ばれると挑戦する人が増えている。
東京都墨田区の主婦、山本志乃さん(41)が作るのは、すし飯をケーキ型で成型し、スモークサーモンやえび、いくらで飾ったすしケーキ。土台となる米飯は、でんぶやみぶなを使ってピンクや緑色を出す。錦糸卵を敷いてバラの形に巻いたスモークサーモンやサヤインゲンを飾り付ければ出来上がり。食卓がぱっと華やぐ豪華さだが「ご飯さえ炊けていれば30分もかからない」という。
山本さんがすしケーキを作ったきっかけは東日本大震災直後の家族の誕生日。ケーキや花束を買うのはためらわれたが、「何かお祝いをしたい」と思案、試作した。家族が喜んでくれたため「花束ケーキ寿司♪」としてレシピサイトのクックパッドに投稿、以来ホームパーティーの常連料理に。
クックパッドには「すしケーキ」で検索すると、800を超えるレシピが登場する。中には、「ティータイムケーキ寿司♪プティフール風」を作った鈴木かなさん(仮名、41)のように、銀食器を使い本格的に演出をする人も。「女子会で作ったらすごく喜んでもらえた」(鈴木さん)
サイバーエージェントのスマホ向け料理写真共有コミュニティ「ペコリ」にも、500件以上のすしケーキの写真が投稿された。子どもを喜ばせようと、母親たちが腕を振るっているようだ。
手間をかけて喜ばす
こうした不思議なケーキが流行する背景は何か。電通総研の吉田将英研究員は実生活とオンライン環境、双方の変化を挙げる。
実生活では経済が豊かになると同時に、食べ物のレベルが上昇。「何を食べてもそこそこおいしくなり、味より驚きや意外性で耳目を集める方が話題になりやすくなった」
また、バブルを知らずに青春時代を送った世代には、高価なプレゼントよりも「手間や時間をかけ、コミットメント(献身)することが喜ばれる」(吉田研究員)。
交流サイト(SNS)が普及したことも要因の1つだ。日々の書き込みが爆発的に増加する中、「情報の価値が、見栄えや写真映えなどに置かれるようになった」(同)。
ラーメンケーキもすしケーキも、見た目のインパクトが大きく、SNS上でも拡散が予想できる。こうした「ビジュアル系フード」は、時代の申し子といえるのかもしれない。
(松本史)
[日経MJ2013年4月17日付]
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