日本では学力低下の引き金にも
熊本県内の中学校でのことだ。昨年秋、中1の女子生徒が、自分の体形に関することを無料通話アプリ「LINE」のグループ内で書かれて嫌な思いをしている、という話を教師が耳にした。早速5、6人ほどのグループの当人と保護者に連絡を取り、内容を確認するために携帯を学校に持ってきてもらったら、全員がスマホだった。
この件に関わった教諭は「新規で携帯を持つ子で、従来型を買ってもらう子はいない。携帯会社の販売戦略でスマホを買った方が得になっているし。生徒の半分弱が携帯を持ち、その大半がスマホと思う」と話す。
中1~2年生の女子は昔から友人関係のトラブルが多い世代だ。かつては手紙に悪口を書いて回す、といった行為だったのが、LINEなどに素早く簡単にかき込めるスマホが出てきてネット上に移り、今回と同様のトラブルが増えたという。結局1年生全体の集会を開き、ネット上のマナーなどについて改めて注意喚起、事を収めた。
スマホが子どもの世界に“侵入”している。内閣府の昨年11月時点の調査では、携帯所有者のスマホ率は小学生が7.6%、中学生25.3%、高校生55.9%。1年前はそれぞれゼロ、5.4%、7.2%だったから、ものすごい勢いだ。調査時から5カ月たち、新学期を迎えたことで事態は進んでいるよう。静岡県内で情報教育に取り組む中学校教諭は「実感では中1スマホデビューが普通になってきている」と語る。
当然、トラブルも多い。ネット上のトラブル相談を受けている全国webカウンセリング協議会(東京都港区)の高橋泰之理事によると「ネットいじめなどこれまでと同様のものに加え、スマホ特有のトラブルがみられる」と説明する。
具体的には(1)無料アプリをダウンロードすると、子どもにはふさわしくない広告が表示される(2)LINEやソーシャルゲームをずっとやり続ける依存に陥る(3)ツイッターで他人になりすまして書き込む(4)スマホで撮った、人が嫌がる動画を勝手に動画サイトにアップする――などだ。
特に(2)の依存は、子どもの生活に深刻な影響を及ぼす。昨年、東京都内のある私立中学校3年生の2学期の保護者会で、生徒の学力が低下している現状が報告された。学校側が指摘した原因は、LINEでのチャットに時間を費やす生徒が増えていることだった。
同協議会の安川雅史理事長は親の心得として、まず「なぜスマホを子どもに持たせたいのか、を考えるべきだ」と強調する。「何かの際に連絡がとれるように」であれば、従来型やPHSで十分。特に地震など天災に備えるなら、つながりやすいPHSが有効だ。
ただ、新規モデルはほとんどスマホ。ネット教育アナリストの尾花紀子さんが勧めるのは、親もスマホに替えて勉強することだ。
「同じ機種にすれば、わからなかったら子どもに聞くなど会話のネタになり、子どもがどんなふうに使っているかもわかり、安全を守ることに近づく」と話す。有害コンテンツを遮断するフィルタリングも携帯電波用のもの、ウェブブラウザー用のもの、アプリ用のものと複雑化しており、積極的に学ぶ姿勢が必要だ。
依存を防ぐ方法として、携帯問題に詳しい兵庫県立大の竹内和雄准教授は買う前に親子でルールを作り、守れなかったら解約すると伝えること、そして子どもと相談しながらルールを見直すことを提唱する。「居間でしか使わない」「寝る時は充電器に置く」等々。
例えば「使うのは夜9時まで」というルールが子どもの生活実態から厳しすぎると感じたら、少しゆるめるなど、「子どもが納得するルールを作ることが大事。愛されていると感じる親の言うことは、子どもはちゃんと聞く」と竹内さん。
一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(東京都港区)は一昨年から、子ども自身がネット環境などについて考え、政策提言をする「高校生熟議」を開催している。昨年度はスマホがテーマ。同年12月に全国から集まった高校生がまとめた提言は「スマホについて考える時間」を求める、というものだった。
奔流に巻き込まれていることに、子どもたちも気づいている。そこで手助けをするのは、大人の責任だろう。
(編集委員 摂待卓)