予約の取れない写真館 我が子の姿、自然かつ大胆に
スタジオにも一工夫
「ほらシャボン玉だよ、キレイだね」――。3月下旬の平日、写真館「ライフスタジオ越谷店」(埼玉県越谷市)のスタジオでうれしそうにシャボン玉を見上げるのは、生後10カ月の男の子。無邪気でかわいらしい表情を一瞬たりとも逃さぬよう、カメラマンがシャッターをきる。この時期だけのおむつ姿やお母さんに抱かれて満足そうな表情など、1時間で数百枚を撮影した。
韓国流を持ち込む
アップルツリーファクトリー(相模原市)が運営する写真館「ライフスタジオ」は首都圏を中心に15店を展開している。韓国で広く人気の撮影スタイルを李濟旭社長が2006年に日本に持ち込んだところ、コミュニティーサイトやブログなどを通じて広がっていったという。予約はインターネットで半年先まで受け付けているが、毎日、日付が変わる夜中にアクセスが集中し、あっという間に埋まってしまう。
東京都足立区に住む男の子の母親は、友人がこの写真館で撮影した子どもの画像をフェイスブックに載せているのを見て予約した。「一般の写真館の写真は衣装が違うだけでどこも表情や背景が同じ。ここなら子どもの一番いい表情を撮ってくれると思った」という。
小学校入学を控えた池上成くん(6)は新しいスーツとランドセルを身にまとってスタジオ入り。ところがカメラマンとアシスタントの斬新な提案に応えてシルクハット風の帽子をかぶって紳士を気取ってみたり、シャツをズボンから出してワイルドに決めてみたり、従来の記念写真とは大きく異なるポージング。母親は「ママの間で話題の写真館。どんな表情を撮ってくれるのか家族5人とっても楽しみ」と笑う。
ライフスタジオの特徴の一つは被写体の自然な表情を引き出すスタジオ作りにある。越谷店は中古車販売店を改装した3階建てで、自然光が入る大きな窓のそばに欧州車を置いたり、子どもサイズのキッチンを設けたり、客が喜びそうな内装を社員総出で作り上げる。
蒔田高徳商品デザイン室長によれば「リピーターも満足するよう、内装は定期的に作り替えている」。自然の光を重視するため、ショッピングセンターや雑居ビルではなく、住宅街の一軒家を借りるなど出店先も独特だ。
料金は、1時間から1時間半で3場面を撮影して2万9400円。数百枚の写真の中からカメラマンが75枚を選び出し、CDデータとして渡す仕組みだ。利用者はポストカードにしたりカレンダーにしたり、SNSに投稿したり、何度も自由に活用できる。別料金を支払えば、フォトアルバムやフレーム加工も受け付けている。
「よりよい日常を残したい」
「それでは撮りまーす。お魚はどこにいるのかな?」――。春休みの観光客でにぎわうすみだ水族館(東京・墨田)。出口近くにある撮影スタジオには、見学を終えた来館者が行列を作っている。目当ては、東京スカイツリーや海の魚を背景に撮る記念写真だ。背景は合成だが、隅田川の花火や東京スカイツリーなど季節に合わせて常時7種類を用意しており、外出先の思い出を写真に残せる。
サンゴの海の画像を選び、ゴーグルをかければ、海の中で魚と戯れる画像に仕上がる。画像選びや画像に合わせたポージングなど、今までにない撮影の楽しみ方を提供しているのが人気の理由だ。5分足らずで撮影を終えた後、1分足らずでプリントした写真を手渡しする。
価格は背景が1つなら1500円、2つなら2000円だ。墨田区内に住む青木駿さん(40)は家族4人で来館。「いつ来ても行列なので今回が初めての撮影。一度スカイツリーを背景に写真を撮りたかった」と出来上がった写真に満足した様子。
全国約430カ所で写真館を展開するスタジオアリスは、昨年から水族館などの観光地にスタジオを構えている。丸山かおりアミューズメントスタジオ営業部長によれば「これまでは誕生日や七五三など『ハレの日』に撮影需要があったが、最近はよりよい日常を残したいというニーズが増えている」という。
旅行にプロカメラマン同行
カメラ付き携帯電話が普及したことで、通勤途中の風景や毎日の食事メニューなど、日常のちょっとした瞬間を写真に撮ることが消費者の間で習慣化している。
フォトマーケット(東京・中央)の推計では、2012年に撮影された写真数は290億ショットで、15年前に比べて2.3倍に増えた。カメラ機能に磨きのかかったスマートフォンの利用者が急増していることで、全体の撮影枚数は今後さらに増える可能性が高い。
一方、写真プリント市場は12年が66億枚で15年前に比べて半分近くに減少。全国の写真専門店はこの10年で3分の1に減った。撮影した写真を見せる「場所」が、自宅のリビングや年賀状といったプリントを前提としたところから、SNSやブログにシフトしているためだ。この結果、日常の幸せな一瞬を、より質の高い画像で撮影したいというニーズが高まっている。
最近では旅行ツアーにプロのカメラマンが同行するサービスも広がっている。家族のくつろいだ素の表情を写真に収めるのだ。七五三などハレの日も、朝の準備から始まる一日すべてをプロに撮影してもらうオーダーが出始めている。撮影が日常化すればするほど、その撮影には技量が必要となり、プロの技への需要は増えそうだ。
(中村奈都子)
[日経MJ2013年4月8日付]
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