快進撃に弾みつく山田和樹 広島でブルックナー初指揮

2013/4/11

クローズアップ

欧州で注目を集める日本の若い指揮者、山田和樹(34)が国内でも活躍の場を広げている。3月には広島交響楽団にデビュー、初めて指揮したブルックナーで成功を収めた。2014年4月には東京混声合唱団(東混)のレジデンシャル・コンダクターから音楽監督に昇格することも内定。正指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団、客演のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、東混それぞれを指揮した新譜CD3点も同時発売されるなど、快進撃が止まらない。

ナレーターに女優の夏菜を起用

3月22日、広島市の広島文化学園HBGホールで開かれた広島交響楽団(広響)第327回定期演奏会。山田は初共演に際し、前半に武満徹最晩年の傑作で、谷川俊太郎の詩の朗読を伴う「系図(ファミリー・ツリー)―若い人たちのための音楽詩」、後半にブルックナーの名曲「交響曲第3番《ワーグナー》」でもめったに演奏されない「ノーヴァク版第1稿」と、極めて個性的な選曲で臨んだ。

夏菜(左)の語りで武満徹作曲の「系図」を指揮する山田和樹(写真提供=広島交響楽団)

「系図」は米ニューヨーク・フィルハーモニックの創立150周年記念委嘱作で武満の死の前年、1995年にまず英語版が現地で初演された。同年の日本初演では、女優の遠野凪子が語りを務めた。広響定期は今年3月末に終了したNHKの連続テレビ小説「純と愛」のヒロイン、夏菜という意表を突く起用でも注目を集めた。遠野ほか既存の録音すべてを聴いて研究、山田とも入念に打ち合わせたという夏菜の語りはドラマのイメージとは真逆。繊細で傷つきやすい少女の心の震えを、淡々と、一切の誇張を交えずに再現してみせた。山田はオーケストラのそれぞれの楽器が担う、異なる音楽のライン(声部)一つ一つを鮮明に浮かび上がらせながら、晩年の武満が目指した「素朴で大きな歌の流れ」の大局を見失わない。フルート・ソロの音楽性、チェロとコントラバスの低弦の厚みなど、近年の広響の充実した響きも生かし、日本初演者の小澤征爾とは異なる味わいに仕上げていた。

交響曲も終演後、「本当に初めて?」と何度か確かめたほど、堂に入った指揮。ブルックナーは聴衆の反応や周囲の意見を気にかけ、たびたび改訂を施した。1つの作品に複数の版(バージョン)が存在する。第3交響曲では最終形態の第3稿の演奏頻度が高いが、刈り込み過ぎて、死の直前のワーグナーが絶賛した新奇性は遠のいているとされる。山田は無理にドイツ風の重厚な響きを模倣せず、第1稿のやや支離滅裂な構成と広響のモダンで透明な音を組み合わせ、実験精神あふれる前衛作曲家という隠れた一面をくっきり、浮かび上がらせた。こう再現されるとブルックナー、武満の距離が縮まるからおもしろい。

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