能力、人脈生かしシニアが起業 生涯現役目指す

働く目的は収入だけとは限らない。仕事で社会に貢献していると実感できることは高齢期の元気の源にもなる。ただ会社に雇われていれば遅かれ早かれ定年を迎える。生涯現役を貫くために起業を選ぶ人も増えている。成功のカギは会社員人生で培った能力や人脈をどういかすかだ。

社員は雇わず

「1人は気楽。天気がよければ気兼ねなく散歩に行ける」とレナ・システムズ社長の松岡玄也さん(埼玉県狭山市)

レナ・システムズ(埼玉県狭山市)社長の松岡玄也さん(67)は3月上旬、英国ヒースロー空港経由でチェコに降り立った。半導体製造装置の設計・販売を手掛けており、生産を委託している現地メーカーと打ち合わせに臨むためだ。

社長とはいえ社員はいない。「設計、営業、お金の管理、郵便物の仕分けも私の仕事です」と苦笑する。サラリーマン生活が長く、自分が社長になるとは10年前まで想像もしなかった。この間、事業見直しに伴うリストラに2度遭い、たどり着いたのが起業だ。

東北大学大学院を修了し、大手メーカーで電子線装置の研究・製品開発に長年携わった。順風満帆な会社員人生を定年間近に不幸が襲った。不採算を理由に入社以来かかわった事業の廃止が決まった。定年後も再雇用でそのまま働く思惑が外れた。会社は定年後も働ける別の部署を準備してくれたが、断った。「スキルや知識を生かす仕事がしたかった。折よく同業他社から『研究者を探している』と誘われ、2005年に転職した」

しかし不運は続く。転職先も経営不振に陥り、担当プロジェクトが打ち切られた。目の前には完成間近の試作品があった。世に出せないままではエンジニアとしてのプライドが許さない。研究の成果・権利を引き継ぎ、09年12月に起業し、翌年装置は完成した。松岡さんは「月給は19万円、会社決算は収支トントン。無理に事業を広げなくてもいい。経験とスキルを活用し、いつまでも生きがいを持って働ければ十分満足」と話す。

高齢化を背景にシニア起業が活発だ。日本政策金融公庫の調査によると、開業者に占める50代以上の割合は12年が22.5%。92年と比べてほぼ倍増だ。シニアにとって起業の一番のメリットは定年がないこと。会社勤務の経験を生かして末永く働きたいとの希望がシニア起業の増加につながっている。

東京都中小企業振興公社は5年前からTOKYO起業塾シニア起業家コースを年1回開いている。主な対象は50~60代の会社員だ。通常の起業家コースと違い、収入よりも働きがいを重視する受講生が多いという。「長年会社に勤めていればある程度の年金収入を見込める。収入は二の次で社会的課題の解決に役立つ会社を興したいと考えるシニア受講生が目立つ」(新事業創出課)。

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