ガチャピンはステゴサウルス? 異色な企画の発信力
恐竜学者がまじめに研究
生誕40年で新機軸打ち出す
2月22日、世界三大恐竜博物館とされる福井県立恐竜博物館(福井県勝山市)で奇妙な研究発表が開かれた。研究者が居並ぶ発表席中央に陣取るのは、ガチャピン。「忙しい先生方、僕を調べてくれてありがとう」との『本人挨拶』に続き、その先祖についての研究成果が厳かに披露された。
これによれば、ガチャピンは4足歩行で特徴的な背びれを持つ剣竜という恐竜の進化形という。「ステゴサウルス」などの仲間ということだが、おふざけの話ではない。ガチャピンと剣竜の骨格や食生活などを分析、比較した緻密で客観的な論理に基づく結論なのだ。
「誕生後40年を経たガチャピンで新機軸を打ち出すには改めて原点を、真面目に掘り下げる必要がありました」。企画の仕掛け人である、フジテレビジョン子会社フジテレビKIDS(東京・港)子育て支援事業部の山田洋久部長は話す。
数年前から認知度高める新企画検討
1973年に初登場後、体操、登山、ダイビングと数え切れないスポーツを華麗にこなし続けたガチャピンは幅広い世代に愛される長寿キャラ。生誕40年となる2013年に向け、認知度を改めて高める新企画が数年前から検討されていた。
ただ、長年人気の定番キャラほど大胆な活性化策を練るのは意外に難しい。大きな変化がなければインパクトは出せないが、かと言ってせっかく培ったイメージを覆し過ぎると固定ファンの離反を招きかねないのだ。
板挟みを打破したのは視聴者からの「ガチャピンは何の恐竜の子ども?」という素朴な疑問。山田氏はその回答を求めて、キャラのルーツを掘り下げていく形なら長年のイメージを守りつつ、今までにない魅力創出ができるのでは、と考えた。
かくして11年末、山田氏は恐竜研究で名高い福井県立恐竜博物館へ「ガチャピンの調査」という破天荒な依頼をする決断をした。「広い年代へ訴えるのにリアリティーは不可欠だった」からだ。親しみやすいキャラを入り口に生命の進化の科学研究へ子どもの関心を養うというメッセージを明確にし、親世代、祖父母世代の関心も引くという構想だった。
雑貨や玩具などで商品開発始まる
結果的に、この考え方は調査依頼した恐竜博物館の東洋一特別館長を動かす決め手にもなった。まさかの依頼に「最初は『がっちゃぴーん』と驚いた」という東氏だが、「キャラが実在すると仮定し、現実資料を基に合理的な裏づけができないか頭をひねる。これはまさに科学の思考パターンに通じる。子どもが『こういう考え方って面白い』と思うだけでも価値がある」と、協力を決めた。
『研究成果』が発揮されるのはまさにこれから。東氏らの研究で判明した内容を「ガチャピンの進化前」という新しいキャラがデザインされ、雑貨や玩具などでの商品開発が始まった。3月からは恐竜博物館やフジテレビお膝元の東京・台場で、研究成果をまとめた「ガチャピンルーツ展」が開催。その後はガチャピンの先祖や進化をテーマにした雑誌連載、アニメ化、舞台ショーなども検討されている。
山田氏の狙い通り、40年前に設定された原点の掘り下げが広範囲で新商品、新コンテンツを生み出している格好だ。現代的「温故知新」とも言えるこの手法。放送業界のみならず、定番商品・ブランドの活性化に悩む消費財企業などからも今後、参考にされそうだ。
山田氏の視線はさらに先へ。「ガチャピンの原点を追究したのなら次は当然『ムック』。あの子は雪男の子どもで、こっちをどう掘り下げるかも考え始めてます」と、笑みをたたえながらも目を光らせて語る。
(堀大介)
ガチャピンの背びれ(骨板)、頭骨、骨盤、前脚にある複数の丸いイボなど体の複数の箇所の構造の細部から、剣竜と呼ばれる恐竜との類似性を理論的に導き出した。
このほか「南の島で生まれた」といった知る人ぞ知る設定にも踏み込み「はるか昔、洋上にあった現在のインド亜大陸の一部が大陸移動の過程で剣竜を乗せたまま分離して小島となり、独自の進化をたどる生息地となった可能性がある」といった見解まで加えている。
[日経MJ2013年3月1日付]
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