2013/3/20

ベーコンについての論評などを数多く執筆しているマーティン・ハリソン氏に会った時、そのちょっと早口で気取らない口ぶりに、思わずベーコンを重ね合わせた。ピカソの展覧会を見て画家を目指したとされるベーコンだが、「ピカソの作品の多くは取るに足らないものだと思っていた」とハリソン氏は断言した。「初期の絵にはまるで興味なし。キュビズムはまったくの時間のムダ。古典主義も評価していない。『アビニョン(の娘)』『ゲルニカ』も毛嫌いした。それ以外、ピカソに何が残るっていうんだい?」とハリソン氏。写真を引用するベーコンの創作の手法などについて聞いてみようと質問すると、「写真とか資料とか、そんなものにとらわれすぎる知能の低い専門家が多すぎるね。人間の孤独だとか実存主義とかいう解釈も必要ない」と返された。

ベーコンは数多くの愛人を持ったが、真の恋人はピーター・レイシーという戦闘機の元パイロットだったというのがハリソン氏の持論。ベーコンを心身ともに傷つけ、破滅的な恋愛関係の末に亡くなった人物だ。「ベーコンは性的にもマゾ。殴られたりムチで打たれたりするのを好み、そのまま激しい性行為に及んだ。(恋人の1人)ジョージ・ダイアが死んで落ち込んだと言われてるが、子供や動物が好き、なんていう優男のダイアはベーコンが欲するだろう最後のものだね」とハリソン氏は言う。「絵画とセックスと死に向き合ったからこそ、ベーコンの絵は人を興奮させる。語りも解説もすべて省き、見る人間と絵との間の距離を破壊して、直接神経を刺激するんだ」。ハリソン氏はアートとはなんの関係もない家庭で育ち、17、18歳までは「絵なんて見たこともなかった」と話す。来年の刊行をめざしてベーコンの全作品集の編集に取り組んでいるが、「ベーコンの全容は永遠に分からない」と一言。仕上がりが気に入らず、ベーコンが自ら壊した絵が「数百はくだらない」のだという。一方で、画材店などに残された作品なども見つかっており、全作品集の出来上がりが楽しみだ。

「三幅対」(1991年、油彩、リネン、198.1×147.6センチ、ニューヨーク近代美術館蔵)Digital Image(C)2012 The Museum of Modern Art/Art/Scala,Florence(C)The Estate of Francis Bacon.All rights reserved.DACS 2013 Z0012

ベーコンは「両極端であることのギャップ」を楽しんだ。場末のバーと高級レストランを同じように好み、夜中過ぎまでどんちゃん騒ぎした後は、朝6時ころに起き出して小さなアトリエにこもった。友人と一緒の時には制止も振り切って飲酒したが、自宅ではコレクターらから贈られた高級シャンパンやヴィンテージのボルドーワインには目もくれなかった。フランスを愛するグルメでありながら、「軽くゆでた卵ほどこの世で好きなものはない」とも。ベーコンという人間と対話するように眺めると、その絵はまた別の表情を見せてくれるかもしれない。

(文化部 窪田直子)

参考文献
――デイヴィッド・シルヴェスター著、小林等訳「肉への慈悲」
――Margarita Cappock「FRANCIS BACON’S STUDIO」
――Michael Peppiatt「FRANCIS BACON STUDIES FOR A PORTRAIT」
展示会名 フランシス・ベーコン展
会  期 2013年3月8日(金)~5月26日(日)
会  場 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3―1)
観 覧 料 一般1500円、大学生1100円、高校生700円
開館時間 午前10時~午後5時(金曜日は午後8時まで。入館は閉館の30分前まで)
休 館 日 毎週月曜日(ただし3月25日、4月1日、8日、29日、5月6日は開館)、5月7日
巡回予定 愛知県・豊田市美術館(6月8日~9月1日)
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