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舞台・演劇

ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場「ルル」 不穏な刺激に焼き付く現実の酷薄さ

2013/3/2

 生々しい鮮血や悶絶(もんぜつ)する肉体を至近距離でみる。そんな舞台だけに残酷な表現が苦手な観客にはお勧めできないけれど、広い世界にはこんな演劇もあるのだと驚かせてくれる。演劇のもつ魔的な力か、肉の塊と化した人間たちが悲劇の傷をえぐる舞台がルーマニアからやってきた。

 ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場の「ルル」を池袋へみにいくと、いきなり意表をつかれた。東京芸術劇場プレイハウス(中劇場)の客席はガラガラの映画館のように人の気配がない。観客は通路を通って舞台へ。そこに300ほどの客席が仮設であつらえられ、三方から見下ろす舞台は息苦しいまでに狭い。役者の腹の皮が伸縮する感じまでが目の前にあって、臭いやほこりまでも感じとれる。

 ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの「ルル」は一般にはアルバン・ベルク作曲のオペラで世に知られる。「地霊」と「パンドラの箱」をまとめ、ファム・ファタル(宿命の女)を主人公とした世紀末演劇、表現主義演劇の代表的台本である。性欲をめぐる人間の破滅衝動を描いているから筋を追ってもせんないこと、うずきを覚える奇怪な感覚そのものから人間の実存が浮かびあがる。そういう体験をシルヴィウ・プルカレーテのこの演出(脚色も)は演劇の極北として表すのだ。

鏡などを生かした美術(ヘルムト・ストゥルメル)が魔術的だ(写真 上田 茂)

 筋のあらましはこう。貧民街で博士に拾われたルルは初老の医事審問官と結婚させられ、ついでカメラマンと関係するが、相手は死んでいく。結局ルルは博士と結婚するが、周りには彼女を慕う同性愛者らが集まってくる。しっとした博士はルルに自殺を促すのだが、彼女は逆に彼を射殺してしまう。逮捕され、脱走したルルを待ち受けていた悲惨な運命とは……。

 陰惨で、救いのない話。休憩を入れて3時間、時折聞こえる悲鳴にいたたまれなくなり、逃げ出したくなる観客もいそう。けれど、目をそむけたくなるシーンに人間の真実が垣間見えるのも確かだ。暗く皮肉な運命を導くのはルルが喚起する性欲という魔物であり、それが常識を破壊し、社会を脅かす凶暴な何かになっていく。その恐ろしさには真実がある。

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