経営学者コトラーの著作から会社の方向を考える 住友生命保険社長 佐藤義雄氏

住友生命保険の佐藤義雄社長が、米国の経営学者、フィリップ・コトラーの本を読み始めたのは10年ほど前。生保業界を取り巻く厳しい環境の中で、コトラーを強く意識してきた。

今なお「マーケティング1.0」段階の企業も

佐藤義雄・住友生命保険社長

「これから会社はどんな方向に向かうのか、自分なりに考えてみたかったのです。全国の販売担当がいくらがんばっても、お客さんに受け入れられる時代ではありません。会社の姿をトータルにとらえようと思いました。日本の企業はいろいろ批判されていますが、コトラーの言う『1.0』になお、とどまっている企業もたくさんあります」

コトラーのマーケティング3.0』(朝日新聞出版・2010年)はお気に入りの一冊。コトラーによれば、マーケティングの世界は急速に変化している。「1.0」=製品中心の時代、「2.0」=消費者志向の時代、「3.0」=価値主導の時代へと移り変わってきた。

「かつて、ある証券会社のミーティングに招かれたことがありました。フランスから投資顧問会社のファンドマネージャーが来日するというので、お付き合いで出席しました。するとファンドマネージャーは『日本は決定的に遅れるぞ』と警告しました。そのときに出てきた題材はアップル対ソニー。アップルがiPodを作り始めた頃です。アップルのビジネスモデルを日本人はもっと勉強すべきだと指摘したのです。すると、日本人の出席者たちは猛然と反論しました。水平分業を柱とするアップルのモデルはペラペラではないか。日本の製造業の垂直分業から出てくる様々なアイデアが、アップルからは出てこない。アップルはだめだと、よってたかって批判しました」

生命保険会社の目指す方向を知る

佐藤社長が愛読する本

「この場面には、私が愛読している中国の古典『菜根譚』に出てくる『逆耳払心』という言葉が当てはまります。他人の忠告には耳を傾けよという意味です。アップルをたたくのではなく、虚心坦懐(たんかい)に耳を傾けることが大事だったのではないでしょうか。その後、アップルは急成長を遂げました。フランスの投資顧問会社の人たちはグローバルな視点で物事を見ていたのです。これからはソフトのプラットフォーム(基盤)づくりに力を入れるべきで、日本は大丈夫なのかとも指摘していましたが、その予言は的中しました。人の忠告に耳を傾けない企業は『1.0』にとどまるのかもしれません」

コトラーの分析は、生命保険会社の目指す方向を示していると佐藤社長は感じている。

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ブランド戦略にも影響