友達の友達は社員候補 広がる「SNSでコネ求人」
IT業界皮切りに新たな職探しツールに
優秀な人材を人づてで確保
有料コンテンツサイト「ケイクス」のサービス開始を控えた昨夏、運営会社ピースオブケイク(東京・渋谷)のメンバーにエンジニアの深谷篤生さん(25)が加わった。「小さな会社でユーザーにダイレクトに届く仕事がしたかった」。インターネット系の広告代理店に勤めていた深谷さんと同社をつなげたのがSNS求人サービス「ウォンテッドリィ」だ。
ウォンテッドリィにはIT系を中心に3万人以上が会員登録。利用企業は最近、月100社ペースで増え約800社に達した。企業は募集要項を自社や社員のフェイスブックに投稿。これがシェアされると友達から友達へと求人情報が広がる。
ピースオブケイクの加藤貞顕・最高経営責任者(CEO)は元編集者。「スキルが必要な職種ほど優秀な人材は人づてで動く」との実感から同サービスを利用した。
人材紹介会社や求人広告サイトの情報は、本気で転職を考える人にしか届かない。一方、ウォンテッドリィは友達の投稿として何気なく目に触れる。運営するウォンテッド(東京・渋谷)の仲暁子CEOは「もっと面白い職場があるかも、と考えている潜在転職者を引っ張り出せる」と話す。
「オフィスに遊びに来て」など緩やかな募集要項も
応募条件は「社員の友達の友達まで」などと限定できる。「オフィスに遊びに来て」といった緩やかな募集要項もあり、事前に相性を確かめられるのでミスマッチも起きにくい。同社が報告を受けた採用事例は30人超だが「実際は100から200人」(同)とみる。
I&Gパートナーズ(東京・港)が昨年12月に始めた「ジョブシェア」は、募集企業が求人情報を仲介した人に謝礼を支払うことで拡散意欲を高める。最終的に転職者が出たら、I&Gと転職者本人、サイトから求人情報をシェアした人などで報酬を分け合う。
先月から利用を始めたネット広告サービスのフリークアウト(東京・渋谷)では、社員9人のSNS投稿から約2万4000人に求人情報が拡散。すでに詳細な募集要項は約3000回クリックされた。「SNS求人なら当社が求めるスキルを持ち、社風にも合う人材の採用を増やせる」(佐藤裕介取締役)
サービスによっては能力や人脈を精査できる。ガーブス(東京・港)の「フォークウェル」は、約7000人の会員が自分の得意な技術を登録。友達がその能力を認めて「+1」ボタンを押した数に応じランクが上がる。
24日にサービスを始めた「グリファー」は、会員登録者自身や、その友達の勤務先などSNS上にある公開情報を収集。人脈を生かせる求人情報をメールで通知する。
安い募集費用 課題は成約率
リクルートキャリア(東京・千代田)によると中途採用の求人数は昨年11月、4年ぶりに7万人を超えた。特にネット専門職は求人倍率が4倍近い。人材紹介会社への手数料は転職者の年収の約30%で数百万円。「相場よりはるかに高い手数料で獲得に走る企業もある」(IT企業)
一方、求人広告は資金力のある大手が目立つ場所を占拠し、ベンチャーには不利。アプリ開発のジェナ(東京・中央)は「全く募集が目立たない」(手塚康夫社長)と、ウォンテッドリィの利用に切り替えた。
SNS活用の求人サービスは成果報酬型で数十万円と安価だ。I&Gパートナーズの新居佳英CEOは「都心のホワイトカラー中心に3~5年で相当普及する」とみる。
課題は成約率。新サービスゆえか、ジョブシェアではまだ転職実績がなく、フォークウェルも数人どまり。潜在的な転職者に「最初の一歩」を踏み出させる工夫も必要で、ジョブシェアは応募の前段階として「興味あり」ボタンを新設した。(石森ゆう太)
[日経MJ2013年1月30日付]
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