リアルな山菜・カエル… カプセル玩具、大人が夢中
奇譚クラブ、社員14人 アイデアで勝負
「コップのフチ子」がヒット
小指サイズのOL風の女性が、コップの縁に座ったり、よじ登ったり。「何これ、超かわいい」「面白すぎ!」。東急ハンズ池袋店(東京・豊島)の1階で女性客が声をあげた。昨夏発売のカプセル玩具「コップのフチ子」シリーズ。今年4月までの累計受注個数が80万を数える奇譚クラブのヒット商品だ。
池袋店の特設売り場には同社商品の自販機が20台以上並ぶ。価格は200~300円。主力は動物や植物を忠実に模した2008年発売の「ネイチャーテクニカラー」シリーズだ。品ぞろえは30種類以上。累計販売数が100万個を超えるロングセラーもある。
「フィギュアと思えば安い」。マニアという都内在住の男性(33)は「ダンゴウオ」のマグネット(200円)を購入した。「当社のターゲットは普段、カプセル玩具に興味のない大人」と古屋大貴社長は話す。
シメジのストラップ、付け根の汚れ再現
古屋社長は大手玩具会社で約10年間、カプセル玩具の企画・営業に携わった後、「とにかく面白い物を作りたい」と06年に奇譚クラブを立ち上げた。現在は社員数14人。売上高は右肩上がりで、12年8月期は前期比4割増の12億円だ。
企画会議は毎月1回、約2時間のみ。元大手玩具会社の女性社員は「毎月5回は会議していた前職よりアイデアを出しやすい」と話す。商品化の条件は「座って聞いていた社員が思わず身を乗り出すこと」(古屋社長)。斬新な発想を生かすため、収益見積もりは商品化決定後に作る。
企画の採用は一見、アバウトだが、もの作りは細部に凝る。シメジのストラップは付け根の汚れを再現するため中国の工場と交渉を重ねた。販売まで1年かかることもあり、毎月の新商品は約5種類と大手の半分以下。商品原価は「在庫リスクを考えると売価の25%が上限」(業界関係者)だが、同社は「売価200円の商品なら60円」(古屋社長)まで許容する。
日本玩具協会(東京・墨田)によると11年度のカプセル玩具市場は10年度比16%増の301億円。大手メーカーが7割以上を占める。「トイジャーナル」の伊吹文昭編集長は「この分野は在庫リスクが大きく新規参入が難しい」と指摘する。
有名キャラに頼らない
ヒットが計算しやすい有名キャラの版権は大手が押さえている。アイデア勝負の奇譚クラブはクリエーターと密に連携し隠れたアイデアの発掘を狙う。昨年10月からは数十人のクリエーターを集めた飲み会を定期開催するほど。「コップのフチ子」は漫画家のタナカカツキ氏が考案した。
一般にメーカーは販路開拓を卸に一任。卸が子供の集まる場所に自販機を置く。一方、奇譚クラブは主要ターゲットの20~30代が足を運ぶ東急ハンズやロフトと直接交渉し売り場を確保する。東急ハンズ池袋店では、カプセル玩具の9割が奇譚クラブの商品だ。昨年8月末から伊勢丹新宿店(東京・新宿)でイベントを開き、約10日間で2万個以上を売り上げた。
年間約60の新商品のうち10商品は「年間50万個以上の注文が来る」(古屋社長)とヒット率は高い。設立当初は卸から3万個しか受注がないことも多かったが、現在は平均15万個まで伸びた。
古屋社長は「どの社員も一人で食べていける実力を持つ」と自負する。入社希望者には3カ月間の試用期間中に、企画会議での成果を求める。発想力と商品作りの執念を鍛える少数精鋭体制が、小さなカプセルの中にユーモアと好奇心の世界を広げる。
(大島有美子)
[日経MJ2013年1月18日付]
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