「歌川国芳」展江戸の「粋」、凝りに凝った筆で

2013/1/22

江戸末期の浮世絵師、歌川国芳(1797~1861年)は武者絵や役者絵、美人画、風景画、戯画など、数多い絵師の中でも特に幅広い分野で作品を残した。約120点の作品を並べてみれば、幕末の江戸の人々の日常や風俗、文化などをそのままのぞき見ることができる。

「国芳もやう正札附現金男野晒悟助」は、山東京伝の読本の登場人物がモデル。強きをくじき、弱きを助ける男だてだ。「国芳もやう」とあるように、画中の着物をデザインしたのは国芳自身。いわば、江戸のヒーローを国芳がプロデュースしたのがこの作品だ。

「国芳もやう正札附現金男野晒悟助」

当時の江戸の人々の憧れがどのような存在だったか如実に分かるが、それだけでは終わらない。着物の図柄のしゃれこうべをよく見ると、何匹もの猫、あるいはススキとハスで構成されているのが分かる。凝りに凝ったデザインだ。

風景画でもこうした凝りようは変わらない。「東都冨士見三十六景 昌平坂の遠景」で描いたのは御茶ノ水・湯島聖堂の南側の坂道。崖下をのぞき込んだり、てんびん棒を肩に坂を上ったり。何気ない景色のはずだが、視点を極端に下げ、江戸の何気ない一日をスナップ写真のような手法で切り取ったと言えよう。

「東都冨士見三十六景 昌平坂の遠景」

従来の日本美術では見られない構図の妙だが、国芳は幕末に海外から流入したオランダの銅版画に画法を学んだとされる。国芳が描いた風景は名所というより庶民の生活の場であることが多いが、構図はいかにも非凡。ありきたりの風景画では満足しない強いこだわりが伝わる。

本領発揮と言えるのが戯画の数々。「人をばかにした人だ」は、いくつもの人体で一人の人物の顔と上半身を表現した。よく見ると、鼻下のヒゲそり跡の青い部分は鼻を形作る男の肩の入れ墨、格子柄の着物も男たちの背中から成っている。何とも楽しい作品だ。江戸の庶民はこうした戯画を日々、楽しんでいたのだろう。

「人をばかにした人だ」
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