震災後の不安を映す 映画回顧2012

若松孝二監督「海燕ホテル・ブルー」

若松孝二監督「海燕ホテル・ブルー」では、刑務所を出た男がかつての仲間を探し、裏切られる。そんな定型ともいえる物語の奥に、今まさにあらゆる神話が打ち砕かれたという実感が脈打つ。若松はそんな感覚を孤島や砂丘といった純粋なイメージに具現化した。

降旗康男監督「あなたへ」で、妻の遺言に従って旅をする刑務官の高倉健が出会うのは、家族や故郷から切り離された人々ばかりだった。経済のグローバル化が家庭も職場も地域もバラバラに解体したという降旗の覚めた視線が底流にある。

そうした苦境の中で人々は懸命に生きている。

タナダユキ監督「ふがいない僕は空を見た」(C)2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会

タナダユキ監督「ふがいない僕は空を見た」、入江悠監督「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」。一見平穏そうな都市近郊に渦巻く息苦しさ、やるせなさ、生きづらさを30代の監督が鮮やかに描き出した。閉塞感に満ちた社会で、片隅に追いやられた若者たちは、ジタバタともがきながら生きている。

ヤン・ヨンヒ監督「かぞくのくに」は北朝鮮に渡った兄の一時帰国を迎える在日コリアン一家の物語。日本映画としては特殊な題材かもしれないが、世界映画としては普遍的な主題だ。家族が国家によって分断され、故郷から切り離される。そんな過酷な状況で生き方を模索するヒロインに、ヤンの真情がにじんでいた。

松林要樹監督「相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶」、藤川佳三監督「石巻市立湊小学校避難所」、舩橋淳監督「フタバから遠く離れて」。震災を追ったドキュメンタリーで力があったのは定点観測に徹した作品だった。場所とそこに流れる時間を見つめ続けることで、人々の生が次第に見えてくる。

アッバス・キアロスタミ監督「ライク・サムワン・イン・ラブ」(C)mk2/eurospace

イランのアッバス・キアロスタミ監督が日本で撮った「ライク・サムワン・イン・ラブ」は、その生々しい現実感に改めて驚かされた。老人が若い女性を自宅に呼び、翌朝、彼女の恋人とはちあわせる。そんな寓話(ぐうわ)的な物語の中で、一人ひとりの俳優が、人間として確かに息づいていた。

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