マリア・シュナイダー・オーケストラジャズの未来を感じさせる快楽

マリア・シュナイダーがジャズ・オーケストラを結成し、最初のアルバムを制作してから、今年で20周年を迎える。この間、彼女のアルバムは、6枚と少ないが、グラミー賞をはじめ、たくさんの賞を受賞しているビッグ・バンド・ジャズ界の一番の女性の才人である。

そのマリア・シュナイダーがようやく来日を果たした。ステージに立った彼女が、バンドのメンバーは、何度も来ているのに、私は初めてと言って笑ったが、それはビッグバンドジャズの世界の難しさをほのめかしている。彼女は、名アレンジャー、ギル・エバンスに師事し、そのアシスタントとして勉強、さらにジョージ・ラッセル、ドン・エリスなどの名作編曲者、バンドリーダーからたくさんのことを学び、32歳の若さで自分のバンドを立ち上げたが、同時にそれは、ジャズミュージシャンとしてもっとも困難な道を選択したと言っていいだろう。

ビッグバンドは、1930年代のスイングジャズの時代こそ花形であったが、その後の音楽の形態の変化とともに、この不経済な大きな組織を存続させることは不可能になった。それでも彼女のような存在が現れるのは、このアンサンブルにはミュージシャンの心を捉(とら)えて離さない大きな魅力があるからで、商業的な存続は難しいが、演奏する側には、ここにはたくさんの快楽が存在するというわけだ。

演奏は、彼女のデビュー作のタイトルチューンから始まった。むろん、ここには彼女の最初のステージの意気込みが込められている。満員の客席から喝采が沸き起こる。当然のことながら、ここには日本のビッグバンド・ジャズのファンが集まっており、パフォーマンスには的確に反応する。それがまた会場を盛り上げる。

一部の例外があるが、彼女のステージは、自己のオリジナルで固められている。これは秋吉敏子もそうだが、オーケストラを自分の表現世界と100パーセント重ねることで、新しいオーケストラ像を生むということになるかもしれない。これは、マリア・シュナイダーが、その初期に前衛ジャズとかプログレッシブジャズと呼ばれた由縁でもあるが、実際の彼女の音楽は、伝統的なジャズの手法からそれほど離れたものではない。ただ、エンタテインメントとして、ありきたりの音楽ではないので、スイングジャズの時代のようにはならない。

それぞれが個性的で、しっかりしたテーマをもち、音楽的な想像力が鍵になっている。言い換えればアートとしてのビッグバンドジャズだが、さらにいうとシュナイダーは、途中からバンド名からジャズという言葉をとってしまったことからも分かるように、開かれた音楽の場としてのオーケストラの世界を想定している。

むろん、ジャズという世界を店じまいしたわけではない。ラストの「バード・カウント」は、トランペットの名手イングリット・ジェンセン他たくさんのメンバーがフィーチュアされたブルースナンバーで、まさにジャズ・オーケストラの大団円である。

新曲「トンプソン・フィールズ」のスケールの大きさ、「ハング・グライディング」のダイナミックなサウンドは、確かにこれまでのエンタテインメントとしてのジャズオーケストラにはない世界かもしれないが、でも、ここにはどこかで自然にジャズを共有する快楽がある。むしろここにはジャズの未来を感じさせるものがある。

12月18日、ブルーノート東京。

(音楽評論家 青木 和富)

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