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年末年始はクラシックCD「箱買い」のススメ 年代順に創作の軌跡を追体験

2012/12/29

 「年末年始は遠出せず、自宅でまったり」と決め込んだ音楽ファンのみなさん、ボックス(箱買い)CDの「まとめ聴き」をお勧めします! 中でも作曲家の特定ジャンルを網羅した全集物なら、相当の時間をつぶせるだけでなく、年代順に創作の軌跡を追体験することができる。

■ベートーベンからシューベルトへ、冬の旅

 毎年12月にはベートーベンの「交響曲第9番『合唱付』」が日本各地で演奏される。せっかく時間に余裕があるなら、第1番から9番まで、全曲を通して聴いてみよう。大みそかには上野公園の東京文化会館で毎年、全曲のマラソン演奏会がある。10回目の今年は小林研一郎の指揮。昼下がりから元日未明までかかる。

ヤンソンスのベートーベン

 「大みそかの外出なんて、まっぴらごめん」という方は、CDでベートーベン・トリップを。2012年11月末から12月初めにかけて日本を訪れ、素晴らしいベートーベンの交響曲全曲を演奏したマリス・ヤンソンス指揮、ドイツのバイエルン放送交響楽団の5枚組(同響自主制作のBRクラシック 900118=輸入盤)が、この曲目における最新盤だ。第6番「田園」は来日直前の11月初めにミュンヘンで収録、と湯気がたつ。

 2013年1月に古希(70歳)を祝うヤンソンスはラトビア人。若いころ「旧ソ連の指揮者」として旧レニングラード・フィル、モスクワ・フィルなどと日本を訪れたため、長くロシア音楽のスペシャリストのように誤解されていた。実際には指揮界の帝王ヘルベルト・フォン・カラヤンに認められ、旧ソ連からウィーン音大へ留学した指揮者の第1号。名教師ハンス・スワロフスキーの下、ドイツ=オーストリア音楽の基礎をみっちり学んだ。

 21世紀に入ると、アムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ミュンヘンのバイエルン放響と中欧の2大名門楽団でシェフを兼任。ベートーベンやブラームス、マーラーなどドイツ=オーストリア系のレパートリーでも、急速に評価を高めてきた。

 ベートーベンの交響曲の演奏スタイルは、ピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の使用が18世紀だけでなく19世紀の音楽にも及んだ1980年代以降、使用する楽譜の版やテンポ設定はじめ、あらゆる角度から見直しが進んだ。

 ヤンソンスもモダン(現代の仕様の)楽器の機能を極限まで発揮する名人集団の個性を尊重しつつ、小ぶりの編成や第1、第2バイオリンを左右に分ける対向配置、作曲家指定のメトロノーム記号を重視した速めのテンポ、リズムの頻繁な交代でフレーズの膨らみを増減させる手法などに、音楽学者らの検証の成果を取り入れた。何より外側の演奏スタイルにとどまらず、内側の精神面においても、作曲家が希求していたヒューマニズムの情熱を随所にたぎらせている鮮度が素晴らしい。

■独自の個性そがれたシューベルト

ミンコフスキのシューベルト

 1797年生まれのシューベルトはベートーベンより27歳も若いのに、亡くなったのは1828年と1年後でしかない。歌曲(ドイツ語で「リート」)作曲家としては早くに評価を確立したが、交響曲やピアノ・ソナタに関しては「歌うような旋律の魅力にあふれる半面、構成が散漫」といった批判に長くさらされてきた。特に19世紀後半、ブラームスらが率先したシューベルトの楽譜校訂では「不ぞろい」を正す「盆栽化」が過剰に行われた。20世紀のミニマルミュージック(パターン化させた音型をひたすら反復する)や偶然性の音楽を先取りしたかのような大胆さ、天国的な長さといった独自の個性がそがれてしまった。

 後世の校訂譜ではなく、ウィーン楽友協会の図書館などに収まっている自筆譜を掘り起こし「あるがままのシューベルト」を再現する動きは1980年代末、指揮者のニコラウス・アーノンクールやクラウディオ・アバド、鍵盤奏者のアンドレアス・シュタイアーらの主導で、ようやく当たり前になった。

 2013年2月にはフランスの指揮者マルク・ミンコフスキが自ら組織したピリオド楽器のオーケストラ、レ・ミュジシャン・ド・ルーブル・グルノーブルとともに日本を訪れ、シューベルトの交響曲連続演奏に臨む。

 来日に先立つ2012年3月、ウィーン・コンツェルトハウスで、オーストリア放送協会との共同制作として一気に録音された8つの交響曲の全集CD(仏naive V5299=輸入盤)のボックスは4枚組。この全集には少なくとも2つ、聴きどころがある。まず第7番(旧全集第8番)「未完成」、第8番(同第9番)「大ハ長調」(日本での通称は「ザ・グレート」)の2大名曲では、カラヤンやカール・ベームらが指揮したモダン楽器のオーケストラで親しんだ旋律を、ピリオド楽器の柔らかく、細やかにニュアンスが移ろいゆく響きで聴き直せる。次いで第1~3番など、比較的演奏頻度の低い作品が実は「未完成」「グレート」に負けず劣らず、シューベルトならではの新奇性に富んでいる実態をこれでもかこれでもか、と立証してくれる。全8曲を聴き通すのが、かつてないほどスリリングな全集だ。

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