「空想法律読本」10年ぶり新刊 高校生のアイデアで復活学校にファクス通信、質問募る

「弾丸より速く走るヒーローはスピード違反に問われないのか」。アニメなど空想作品を現実の法律に照らして検証する本「空想法律読本」が10月に刊行され、好調に売れている。聞き覚えのある書名と思うのも当然。1996年から続く長寿シリーズ「空想科学読本」の姉妹作だ。だが、単に二匹目のどじょうを狙う新作ではない。約10年前、1度は刊行が途絶えたシリーズの復活だ。再刊行を成功させたその手法は、新たなヒットコンテンツ開発の1つの先例となりそうだ。

「ハイジ」のいじわるな家政婦長に法的な問題は?

▼空想法律読本 2001年に第1弾、03年に第2弾が出版された。現役弁護士の監修を受け、空想作品の奇想天外な事例の法的検証を厳密に行うことで人気となった。10年からは全国の高校へ無料で配信されるファクス「図書館通信」で復活し、その質問・回答をまとめた新刊を第3弾として12年10月に発売した。 現在の発行はメディアファクトリー。著者は盛田栄一氏で、ヴァスコ・ダ・ガマ法律会計事務所の弁護士、片岡朋行氏と高橋宏行氏が監修する。今後は読者層の一段の拡大に向け、片岡氏や高橋氏がミニブログ「ツイッター」で直接「空想法律」の質問を受けるイベントも計画している。

「ロッテンマイヤーさんにハイジへの積極的加害意思はないの?」

「刑事裁判では因果関係立証のハードルは高い。民事上の損害賠償は十分あり得ますが……」

11月末。東京・港のヴァスコ・ダ・ガマ法律会計事務所では白熱した議論が交わされていた。外国人の名前が飛び交うのはどんな国際事件の検証かと思いきや、机上に置かれた資料にはアニメの絵がいっぱい。

「空想法律」シリーズを生み出す、打ち合わせの一コマだ。ちなみにこの時は「アルプスの少女ハイジ」で、厳しい家政婦長の言動で主人公が夢遊病になったエピソードで法的責任が問えるかの議論だった。

漫画や特撮などの空想作品を法律で検証

アニメや漫画、特撮など空想作品に対し、徹底的にリアルな法的検証を行う同シリーズの初刊行は2001年と意外に古い。誕生に関わったメディアファクトリー出版事業局の近藤隆史局次長(51)は「子供の時に見た『エイトマン』は弾丸より速く走って逮捕されないの、という疑問が企画のきっかけだった」と明かす。

法的検証は真面目にやると、意外な結論が導かれる例も多い。例えば、エイトマンは人間ではなくロボットのためスピード違反も含め、法律適用を受けない。エイトマン自身は何をしても法的におとがめなしだ。こうした法的な考え方の面白みや問題点も伝えようと、企画は動き出した。

著者として白羽の矢がたったライターの盛田栄一氏(52)は「法律は全く素人。でも、確かに子供の時に見ていた特撮などは随分メチャクチャな設定や場面が多かった。それに『ツッコミ』を入れるのは面白いと思った」と振り返る。

10年前に2冊出して休止に、テーマが枯渇

編集会議では白熱した議論が交わされる(左端から監修をした高橋弁護士、片岡弁護士、著者の盛田氏、近藤氏)

一方、法律の監修の役割を打診された片岡朋行弁護士(42)も「話をもらった時、具体的に何をすればいいのかはわからないところもあったが、面白い本はできそうだなと感じて引き受けた」と語る。

かくして「空想法律」の製作はスタートし、01年に第1弾、03年に第2弾が発売され、いずれも堅調な売り上げを残した。しかしその後に続編が刊行されることはなかった。人気が下火になったわけではない。テーマの枯渇が問題だった。

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