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冬本番、北国のオーケストラが熱い! 山形響と札幌響、ドイツ音楽で名演競う

2012/12/4

山形交響楽団の熱気に満ちた歌劇「さまよえるオランダ人」の山形初演、札幌交響楽団と首席客演指揮者に就いたチェコの至宝ラドミル・エリシュカによる名演の数々……。いま北国のオーケストラの演奏が熱い。優れた指導者と気鋭の楽員、地元聴衆の温かな支援がかみ合い、強い個性をはぐくんでいる。東京や大阪には複数の楽団がひしめき、定番の名曲で連日の集客を競いがちだが、山形や札幌では練習にじっくり時間をかけ、独自路線を打ち出す余裕がある。最近では選曲の妙が注目され東京や大阪、場合によっては九州からもファンがかけつけてくる。

■「さまよえるオランダ人」の山形初演を成功に導く

日本のオーケストラ事情に詳しい編集者、岩野裕一氏は今年11月22日に福岡市で九州交響楽団、23日に山形市で山形交響楽団(山響)、24日に群馬県高崎市で群馬交響楽団、25日に札幌市で札幌交響楽団(札響)と、4日間に南から北までのオーケストラを聴き続けた。中でも音楽監督の飯森範親(49)が指揮した楽団創立40周年記念の定期演奏会でワーグナーの「さまよえるオランダ人」全曲に挑んだ山響と、エリシュカの練達の指揮でハイドン、モーツァルト、ベートーベンと、ドイツ・オーストリア音楽の古典の王道を究めた札響。北国の2つの楽団が収めた成果は目覚ましかったという。

飯森範親指揮山響・山響アマデウスコアらによる「さまよえるオランダ人」の演奏会形式上演(写真提供=山形交響楽団)

来年が生誕200年に当たるドイツの作曲家ワーグナーのオペラは、切れ目ない旋律(無限旋律)が延々と続く。1842年に完成した「オランダ人」は晩年の楽劇ほど長大ではないが、休憩なしの1幕版で上演しても2時間15分はかかる。今回は山形初演を踏まえ「ある幽霊船の物語」とわかりやすい副題をつけた上、3幕版として第1幕の後に15分間の休憩を入れたので「いったい何時に終わるのだろう」と、23日午後7時の開演前には不安を覚えた。だが飯森は激しい気迫、強じんな推進力で全曲を一気に聴かせる構えで臨み、山形テルサの客席800人の集中を保ったまま、9時35分の終演へと持ち込んだ。

飯森は2004年に常任指揮者(07年から音楽監督)へ就いて以来、50人に満たない楽団や人口25万人と小規模の県庁所在地の制約を逆手にとり、独自性に富んだ曲目や楽員と一丸の地域密着作戦で聴衆の層を広げ、演奏水準を引き上げてきた。08年には映画「おくりびと」にも山響とともに出演した。

「オランダ人」もあえて第1バイオリン10人、第2バイオリン8人……とふだん通りの編成で臨み、歌劇場のピットにもぐったオーケストラでは得られない透明な響き、ワーグナーが施した細かな工夫の数々を堪能させた。今もドイツ・オーストリア圏の地方歌劇場では、これくらいの小編成で臨機応変にワーグナーを上演する。ミュンヘンでオペラ指揮を学び、ドイツでの演奏経験も豊富な飯森ならではのアイデアだった。

題名役(オランダ人)はチューリンゲン州のゲラ市立劇場で12シーズンにわたって第1バリトン歌手を務め、ドイツで名誉ある「宮廷歌手」の称号を授かった小森輝彦。日本へ永住帰国して最初の大役でも傑出した存在感、演奏会形式とは思えないほどに劇的な説得力をもたらすドイツ語の歌いまわしで魅了した。

合唱は専属でアマチュア選抜の山響アマデウスコアに山形大学、岩手大学の学生と卒業生有志を加えた約60人。私服で簡単な演技をこなすのは大変だっただろうが、プロの歌劇場合唱団でもめったに聴けないほど正確な音程、透明な和声感を披露した。舵手に岩手県出身の鏡貴之(テノール)、マリーに青森県出身の柿崎泉(メゾソプラノ)と合唱を兼ねた小さな役に地域出身の若手を抜てきしたのも、40年前に東北地方初のプロ楽団として発足した山響の記念演奏会にふさわしい。すべてに手づくりの良さを感じさせる一夜だった。

飯森範親指揮山形交響楽団をライブで聴く=品川区民芸術祭2012「ラ・フランス コンサート」。12月7日午後7時、東京・大井町の「きゅりあん」大ホール(http://www.shinagawa-culture.or.jp/)で。シューマンの「交響曲第3番《ライン》」とオペラ名曲。洋ナシの「ラ・フランス」ほか山形の名産品も販売する/CDで聴く=ブルックナー「交響曲第4番《ロマンティック》」(オクタヴィア・レコードOVCX-00037)。「さまよえるオランダ人」と同じく、より大編成の演奏が一般的な作品を山響のサイズで奏で、作曲家の自然観照など微細なニュアンスを浮き彫りにした。

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