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「バベルの塔」崩すオペラ「バビロン」 ケント・ナガノがミュンヘンで世界初演

2012/11/22

 「オペラという芸術表現は21世紀、どう変化し、生き残るのか?」。ドイツ・ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場音楽総監督(GMD)を務める日系米国人指揮者、ケント・ナガノが世界で最も注目される地元出身の若手作曲家イェルク・ヴィトマン、売れっ子哲学者ペーター・スローターダイクとともに困難なテーマへ挑み、新作のドイツ語オペラ「バビロン」を世界初演した。カタルーニャの演出集団「ラ・フラ・デルス・バウス」のカルルス・パドリッサによるスペクタクルな舞台も得て、センセーショナルな成功を収めた。

■39歳ヴィトマンが作曲、売れっ子哲学者スローターダイクがオペラ初台本

 ヴィトマンは1973年ミュンヘン生まれ。クラリネットの名手としても知られる。フランスの作曲家メシアンの生誕100年にちなみ、ピアニストの児玉桃らと「世の終わりのための四重奏曲」を演奏するために来日した2008年、「バビロン」への構想を熱く語った。「バイエルン州立歌劇場からの委嘱で、自分にとっては初めてのフルサイズのオペラ。2010年にケントの指揮で初演する予定だ」と話していた。オペラ台本を初めて手がけたスローターダイクは1947年カールスルーエ生まれ。ミュンヘン大学で哲学、ドイツ文学、歴史学を修め、現在はカールスルーエ造形大学で哲学とメディア論の教授と学長を兼ねる。第2ドイツテレビ(ZDF)の番組「哲学のカルテット」の司会もこなすタレント教授だ。

カルルス・パドリッサと「ラ・フラ・デルス・バウス」によるスペクタクルな演出(Wilfried Hoesl撮影)

 歌劇場の委嘱は2004年にさかのぼる。作曲は遅れに遅れ、歌劇場は10年時点でいったんキャンセル。ナガノは「それでも私たちは『今こそ大規模なオペラを書くべき時』と、ヴィトマンを励まさなければならない」と歌劇場のニコラウス・バッハラー総裁を説得、再度の委嘱が12年初演で決まった。世界初演は10月27日。奇しくも同日にドイツの大作曲家ハンス・ウェルナー・ヘンツェが86歳で亡くなった。ヘンツェはヴィトマンの師の1人で、まだ10代の時に作曲の委嘱を仲介してくれた恩人。初演はヘンツェにささげられた。

 バビロンとは、バグダッド南方90キロメートルのユーフラテス川沿いに紀元前3世紀ころ栄えたメソポタミアの古代都市。聖書には「バベル」と記される。神と人間が一体化したバビロン独自の神殿宗教と、囚われ移住させられたユダヤ人の宗教が混在した。キリスト教など後の時代の宗教では両者の併存が対立の概念で語られ、度重なる洪水でバビロンが滅びて以降は「退廃都市」の烙印(らくいん)を押されてきた。スローターダイクはイラクのユダヤ人社会の原点となったバビロンが今も紛争地域に位置し、宗教対立に基づく世界の悲劇も後を絶たない現実をとらえ「バビロンの名誉回復を試みつつ、異なる文化や文明、宗教への寛容を訴え、人々の和解を描く」ことをオペラの基本テーマに選んだ。

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