青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト「アンドロイド版『三人姉妹』」演劇の本質揺さぶる実験的作品

平田オリザはパンドラの匣(はこ)を開けてしまったのだろうか。ロボット演劇なるこの新奇なプロジェクトは演劇を進化させる福音となるのか、それとも演劇の人間性を破壊する劇薬なのか。複雑な感慨にとらわれつつも、新作はこれまで信じられてきた演劇の本質を揺さぶる過激さを秘めていると確信した。

ふつうの観劇にはならないと最初に断っておこう。つかのまの娯楽というより、研究室で実験に立ち会っているかのよう。出てくるのは生身の役者、人間そっくりのアンドロイド「ジェミノイドF」、そして家事ロボット「ロボビーR3」。平田は自身教授をつとめる大阪大学で4年前から、石黒浩研究室と共同でロボット演劇を試みてきた。石黒研究室からすれば、開発したロボットに人間性を加えていく実験の意味があり、劇作家で演出家の平田にすれば演劇の未来図を先取りする刺激が得られるというわけだ。この間、バッテリーの持久力や発声手法など技術的性能は確実に進歩している。これまでは短編しかできなかったが、今回はチェーホフの有名な喜劇を翻案した1時間45分ほどの本格的な作品に仕上げた。

首から上を少し動かせるだけのジェミノイドFは一瞬、本物の人間と見間違えそうになるほど精巧。脇腹のあたりに発声装置があり、プログラムされた音声をややくぐもった声に変換して発する。平田によれば、あまりクリアな音響にするとリアリティーがかえってなくなるらしい。動けないから、電動の車イスに乗って出入りする。

ロボビーR3は、昔のアニメでおなじみのロボットのイメージで、いかにも人工的な機械の声を発する。今やお掃除ロボットが人気で、一人暮らしの人が「かわいい」とか言っているのを耳にする時代だが、その延長上にある家事ロボットだ。ロボット演劇には未来のありようを具体的に目にする驚きがある。

お話はチェーホフの原作に似ているともいえるし、かけはなれているともいえる。ロシアの辺境が近未来の日本の企業城下町に置き換えられ、いつもの平田演出同様、さりげない会話が積み重ねられていく。父親は将軍ではなく、ロボット学の権威だった学者という設定で、その教え子がシンガポールに赴任する際の送別会が開かれる。三人姉妹のうち三女がジェミノイドFによって“演じられ”繰り返し登場するロボビーR3はメーンディッシュとなるサバの料理法を尋ねたりする。

アンドロイドもロボットも実に日常的な空気の中に存在し、人々はあたりまえのように話しかける。このあたりの演出上の工夫がトリックとなる。ありきたりの生活の光景に世界のゆがみや社会が崩壊する予兆を描きこんでいくのが平田演出の特徴であり、今回はその演劇的な細密画がロボットとアンドロイドによって、いっそう奇妙なだまし絵になっているのだ。

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