ところで、原作で作画を担当した川崎のぼるさんは「巨人の星」のインド版へのリメークについてどう考えているのだろうか?
「もしかしたら、許しが出ないかもしれない……」。当初、講談社内ではこんな声も上がったらしい。だが、古賀さんが熊本県に住む川崎さんの元に説明に出向いたところ「面白い話じゃないか。構わないよ」と快諾してくれたという。
ただ、川崎さんは1つだけ条件を付けた。
「明子姉さんだけは美しく描いてほしいな」――(写真10は原作の主人公の姉、明子、写真11はインド版の主人公の姉、シャンティ)
「飛雄馬」名前の由来とは?
少し話が脱線するが、ここで豆知識を紹介しよう。
インド版の主人公の名前、スーラジはヒンディー語で「太陽」を意味するという。では、原作「巨人の星」の主人公の名前、飛雄馬(ひゅうま)という名前がどうして付けられたのかご存じだろうか? かなりユニークな名前なので、不思議に思っている方がいるかもしれない。
「梶原一騎伝」(斎藤貴男著、新潮文庫)によると、実は「人間」を意味する英語、ヒューマンをもじった名前なのだそうだ。故梶原一騎さんが作品を通じて「人間」「ヒューマニズム」を描こうとしたことに由来するらしい。
さらに言うと、構想の段階では、飛雄馬の名前は「難しすぎる」という理由で、一時は主人公の名前を「明」に変更する案が検討されていた。だが、梶原さん本人や編集者らの強い要望で、当初の「飛雄馬」に差し戻された経緯があるという。この結果、「明」という名前は姉の「明子」としていかされることになった。
活力や存在感で押され気味?
最後に日本の人口ピラミッド(図12)で「東京五輪世代」の立ち位置を確認しておこう。
「東京五輪世代」は、「団塊の世代」(1947~49年生まれ)と「団塊ジュニア」(1971~74年生まれ)に挟まれていることが分かる。東京五輪が開催された1964年生まれの人口は、男女合わせて約163万人。これが、「団塊の世代」に属する1949年生まれの人口だと男女合わせて約226万人、「団塊ジュニア」に属する1973年生まれの人口だと男女合わせて約202万人。
同年齢人口が多く、日ごろから激しい競争にもまれている「団塊の世代」や「団塊ジュニア」に比べると、「東京五輪世代」は活力や存在感でやや押され気味かもしれない。だが、「団塊の世代」がようやく定年期に差し掛かる中で、「団塊ジュニア」の先輩として、次第に社会で責任あるポストや権限を任されつつあるのが「東京五輪世代」だともいえる。
今回、実現したインド版「巨人の星」プロジェクトには、そんな「東京五輪世代」の様々な情熱やこだわり、さらには自らの世代に対するエールも込められていると考えるのは、少々うがちすぎだろうか……。